ホウセンカ

えむら若奈

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エピローグ

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「桔平くん、体調大丈夫?」
「んーすっげぇ疲れてる。もうグッタリ」

 少し甘えた声で言って、桔平くんは私の体にもたれかかってきた。昨日も帰りが遅かったし、本当に疲れているみたい。

「でもようやく、東京を脱出できるからな。ホッとするわ」
「そうだね。何も考えず、のーんびりしようね」

 今日は12月24日。年末年始を北海道で過ごすため、私と桔平くんは羽田空港に来ていた。

 予想通り、空港は人だらけ。当然ベンチも空いていない。でも準備のいい私が超コンパクトに畳める椅子を持参していたから、ゲートエリアの隅っこに2人でちんまり座って搭乗時間を待っている。

「あっという間に年末だなぁ……」

 行き交う人をぼんやり眺めながら、桔平くんが呟いた。春先に肩まで切った髪は、もう胸のあたりまで伸びている。やっぱり私は、髪の長い桔平くんが好きだな。色っぽくてかっこいいんだもん。

「年明けから激動だったな」
「ほんとだねぇ」
「頑張ったよな、お互いに」
「うん、頑張ったよねぇ」
 
 “浅尾瑛士展~普遍の美~”が開催されたのは、今年春のこと。CMや新聞広告、街中のポスターなどなど、各方面への精力的なプロモーションが功を奏したようで、連日大盛況で幕を閉じた。

 さすがは大手新聞社というか。多くのメディアに顔が利くこともあって、個展の開催は複数の情報番組でも取り上げられた。

 そして桔平くんが取材対応をする姿が放送されると、新進気鋭のイケメン日本画家を一目見ようと女性客が殺到。2週間の会期中は春休みと重なっていたこともあって、桔平くんの在廊日には黒山の人だかりができていた。

 スミレさんの強かな戦略だと苦笑していた桔平くん。人前で喋るのは苦手なのに、一生懸命お客さんの相手をしていた。愛想が良いとは決して言えなかったけれど、不器用ながらも真摯で丁寧な姿勢は伝わったようで、人柄に対する評判は上々。
 有名画家の息子で目を引くビジュアルということだけでなく、絵を描くことは父との会話だというストーリー性がメディアや大衆に受けて、桔平くんへの取材申し込みが殺到した。

 スミレさん曰く、最近若い世代の間で日本画が流行っているんだって。だから桔平くんのような若手画家は特に注目されやすい。

 個展が終わっても桔平くんはメディア対応に追われ、大学院の勉強と来年開催する自分の個展に向けた制作も並行して、毎日ヘロヘロ。私は私で教育実習と就職活動で走り回って、毎日ヘロヘロ。特に今年の前半はお互い忙しすぎて、記憶が曖昧になるほどだった。
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