ホウセンカ

えむら若奈

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貴方によく似たリンドウを

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「聞いてる?桔平」

 翔流が、また心配そうな視線を向けてくる。
 もともと人の話をあまり聞かないが、この頃のオレは特にそれが酷くなっていた。栄養不足だからなのか睡眠不足だからなのか、気が遠くなって何も聞こえなくなる時が多い。

「聞いてねぇ」
「だからぁ、紹介してんじゃん。大野和馬と宮崎秀悟」

 この日は合コンの前にカフェへ寄って、参加する男連中と顔合わせする時間を翔流が設けてくれた。2人とも翔流と同じ大学らしい。大野とかいう地味な男が、オレの顔をまじまじと見つめてくる。

「あの……違ってたらごめん。浅尾君って、もしかして歌舞伎町によく来る?俺のバイト先、歌舞伎町にあるんだけど。よく女連れで歩いてるの見た気が……」
「あぁ、よく行くよ。安いホテルがあるから」

 オレが女と会う場所は、大体新宿だった。スミレに紹介された風俗嬢がいるのも新宿の店だし、安くて綺麗なラブホテルも多い。いつも目立つ服装で歌舞伎町をうろついていたから、近くで働く人間に覚えられてしまうのも当然だろう。
 
「え、えっと……いつも違う女連れてなかったっけ」
「そうだな。そういうヤツなんだよ」
「桔平」

 翔流が窘めるような視線をオレに向けてきた。
 
「ついでに言うと彼女もいるし。合コン行っても女を口説く気はねぇから、そっちはご自由にどうぞ」

 投げやりな言い方をしてしまった自覚はある。とにかく当時は、感情のコントロールが難しくなっていた。些細なことでも苛立つし、それを他人へ向けてしまう。そしてひとりで落ち込んで、憂鬱な気分がずっと続く。
 相変わらず眠れないし食べられないしで、健全な精神を保てるわけがなかった。
 
「こいつ、こんなんだからさぁ。同年代との交流の場を~と思って参加させてるんだよ。基本はいい奴だから、安心して」

 そう言って、翔流が取り成す。大野と宮崎とは特に仲良くもならなかったが、その後何回か一緒に合コンへ参加した。翔流の友人だからなのか、特にオレを敬遠することもなかったようだ。

 その日のことは、ほとんど覚えていない。記憶にあるのは、参加した女のひとりと翔流がその場のノリで付き合いはじめていたということ。そして帰宅してからスミレと会ったことだけ。

 スミレには、合コンへ行くことを事前に告げていた。別に何かを期待したわけではない。ただ予定を訊かれたから、答えただけだった。

「合コン、どうだったの?」

 また画集を渡すために家へ来たスミレが、妙に嬉しそうな顔で訊いてくる。
 
「可愛い子いた?」
「さあ。よく見てねぇし」
「なんだ、つまんないの。せっかくだから合コンで可愛い彼女見つければ良かったのに」

 付き合っているはずの彼女に、どうしてそんな事を言われないといけないのだろうか。オレがスミレ以外を見るわけないと分かっているくせに。

 思わず黙り込むと、スミレが背中に抱きついてきた。
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