ホウセンカ

えむら若奈

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貴方によく似たリンドウを

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 それから、スミレは頻繁に連絡をしてきた。
 用件のほとんどが、美術館や博物館への誘い。タダで鑑賞券が手に入るからと、オレをいろいろな展示会へと連れて行ってくれた。

 スミレと一緒にアート作品を鑑賞するのは楽しかった。自信満々に言うだけあってかなりの知識を持っていたし、自分にない視点は刺激になる。そして芸術に関しては、オレの早口にもついてきてくれた。

 別に異性として意識していたわけではない。スミレも同じだったと思う。
 美術鑑賞が終われば、軽くお茶をするくらいですぐに解散。デートなんかとは程遠いあっさりとしたものだったが、いつの間にか名前で呼び合うまでに打ち解けてはいた。

 そして出会って2ヶ月ほど経った、ある週末。オレとスミレは、少し足を伸ばして箱根の美術館まで行った。

 観光をするわけではないので日帰りできる予定だったが、運悪く帰りの時間に箱根登山鉄道が運転見合わせとなる。倒木の影響らしい。

 運行再開の見通しが立っていないとのことだったが、幸い次の日は日曜日なので、箱根で宿を取って1泊することにした。

「少し高くてもいいでしょ?桔平、お金持ってるし」
「寝れりゃなんでもいいよ」

 面倒なのでスミレに任せると、1部屋しか確保していなかった。

「なんで2部屋取らなかったんだよ。空いてたんだろ?」
「いちいち理由を言わなきゃ分からないほど、貴方は馬鹿じゃないでしょ」

 スミレは、いつもと同じ調子で言った。
 恋愛感情なんて甘いものではない。それでも、お互いを求めているのを感じていた。

 父親がいなくなってからというもの、オレは心の隙間を埋める方法を必死に探していたと思う。

 広い世界に出て、価値観の異なる人たちと交流して、たくさんの美術品に触れる。そうやって父親の足跡を辿ると、少しだけ心が満たされていく気がした。

 それでも時々、どうしようもない寂しさに襲われる。もう誰もオレのことを見てくれない。理解してくれない。この寂しさを一生背負っていくのかと思うと、自分の生きる意味が分からなくなった。

 スミレは、そんな心の隙間に何の違和感もなく入り込んできた。オレの絵を色眼鏡なしで真っ直ぐ見つめてくれた、初めての人間。

 恋愛感情なんかなくてもいい。スミレと繋がって、自分はひとりじゃないと実感したい。ただそれだけ。

 愛の言葉なんぞ囁き合う暇もなく、オレたちは貪るようにお互いの体を求めた。
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