ホウセンカ

えむら若奈

文字の大きさ
上 下
290 / 407
色鮮やかなオオゴチョウ

11

しおりを挟む
 その後も桔平くんの口数はとても少なかったけれど、飲み会自体は和やかに進んだ。
 長岡さんも場の空気に慣れてきたらしく、ぎこちなかった顔に少しずつ自然な笑顔が浮かんできて、何故かホッとしてしまった。

 そして2時間の飲み会は無事終了。みんないい感じに打ち解けて、親交が深まったっぽい。だけど上機嫌でお酒を飲みまくっていた小林さんは、終盤には半分寝ているような状態だった。

「あぁほら、七海。しっかり自分で歩きなさい」
「歩けない~!翔流に寄りかかる~!」

 こっちはこっちで、足元がおぼつかない七海の体を翔流くんが支えてあげている。

 私はあまり飲んでいなかったし、もちろん桔平くんもいつも通り酔わない程度にセーブしていた。結衣と葵は途中からソフトドリンクに切り替えていたから、まったく問題なさそう。

「じゃあ俺、一佐連れて帰るから」

 小林さんの小さな体を支えながら、長岡さんが言った。

 長岡さんは結構飲んでいたのに、全然平気みたい。お酒強いんだ。でも小林さん、軟体動物みたいにぐでんぐでんになっているけれど、ひとりで連れて帰れるのかな。

「長岡さん、大丈夫?」
「大丈夫だよ、いつものことだし。一佐の家は通り道だから」
「そっか……気をつけてね」
「ありがとう。愛茉ちゃんも気をつけて……って、浅尾と一緒だから大丈夫か」
 
 私と長岡さんのやり取りを気にすることもなく、桔平くんはスマホを見ている。
 間に、葵がずいっと割り込んできた。

「英哉くん、またLINEするね?」

 やっぱり葵は、長岡さんを落とす気なんだろうなぁ。
 七海のようにいきなりホテル、みたいなことはしないタイプだから、時間をかけて少しずつ攻めていきそう。
 
「あ、えっと……お、俺あんまり返せないかもしれなけど……」
「大丈夫、分かってるから。卒業制作とかバイトで忙しいんだもんね?」
「ま、まぁ……うん」
「時間がある時、また遊んでね」

 あまり押しすぎると引かれてしまうと判断したのか、葵はそれ以上言わなかった。

 そして東京駅で解散して、それぞれ帰路につく。長岡さんは、小林さんを抱えながら山手線のホームへ向かっていった。
 私と桔平くんは中央線。車内は結構空いていて、ゆったりと座席に座れた。ようやく解放されたといった感じで、桔平くんが軽く伸びをする。
 
「ねぇ、桔平くん」
「んー?」
「小林さんのこと、一佐くんって呼んだら怒る?」
「そんなことで怒るわけねぇじゃん。アイツが喜ぶのは癪だけどな」

 言いながら、大きな欠伸をした。

「……じゃあ、長岡さんは?英哉くんって呼んでもいい?」
「愛茉が呼びやすいように呼べばいいよ。翔流のことだって名前で呼んでんじゃん。それに愛茉は、長岡と仲良くなりてぇんだろ?」
「う、うん……」

 改めて言葉にされると、何故か一気に罪悪感がこみ上げてくる。別に後ろ暗いものがあるわけじゃないのに。

 ただ純粋に、長岡さんのことは人として好きなの。だってあんなに優しくて誠実な人って、そうそういないし。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ふざけんな!と最後まで読まずに投げ捨てた小説の世界に転生してしまった〜旦那様、あなたは私の夫ではありません

詩海猫
ファンタジー
こちらはリハビリ兼ねた思いつき短編の予定&完結まで書いてから投稿予定でしたがコ⚪︎ナで書ききれませんでした。 苦手なのですが出来るだけ端折って(?)早々に決着というか完結の予定です。 ヒロ回だけだと煮詰まってしまう事もあるので、気軽に突っ込みつつ楽しんでいただけたら嬉しいですm(_ _)m *・゜゚・*:.。..。.:*・*:.。. .。.:*・゜゚・* 顔をあげると、目の前にラピスラズリの髪の色と瞳をした白人男性がいた。 周囲を見まわせばここは教会のようで、大勢の人間がこちらに注目している。 見たくなかったけど自分の手にはブーケがあるし、着ているものはウエディングドレスっぽい。 脳内??が多過ぎて固まって動かない私に美形が語りかける。 「マリーローズ?」 そう呼ばれた途端、一気に脳内に情報が拡散した。 目の前の男は王女の護衛騎士、基本既婚者でまとめられている護衛騎士に、なぜ彼が入っていたかと言うと以前王女が誘拐された時、救出したのが彼だったから。 だが、外国の王族との縁談の話が上がった時に独身のしかも若い騎士がついているのはまずいと言う話になり、王命で婚約者となったのが伯爵家のマリーローズである___思い出した。 日本で私は社畜だった。 暗黒な日々の中、私の唯一の楽しみだったのは、ロマンス小説。 あらかた読み尽くしたところで、友達から勧められたのがこの『ロゼの幸福』。 「ふざけんな___!!!」 と最後まで読むことなく投げ出した、私が前世の人生最後に読んだ小説の中に、私は転生してしまった。

皇太子から愛されない名ばかりの婚約者と蔑まれる公爵令嬢、いい加減面倒臭くなって皇太子から意図的に距離をとったらあっちから迫ってきた。なんで?

下菊みこと
恋愛
つれない婚約者と距離を置いたら、今度は縋られたお話。 主人公は、婚約者との関係に長年悩んでいた。そしてようやく諦めがついて距離を置く。彼女と婚約者のこれからはどうなっていくのだろうか。 小説家になろう様でも投稿しています。

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

強引に婚約破棄された最強聖女は愚かな王国に復讐をする!

悠月 風華
ファンタジー
〖神の意思〗により選ばれた聖女、ルミエール・オプスキュリテは 婚約者であったデルソーレ王国第一王子、クシオンに 『真実の愛に目覚めたから』と言われ、 強引に婚約破棄&国外追放を命じられる。 大切な母の形見を売り払い、6年間散々虐げておいて、 幸せになれるとは思うなよ……? *ゆるゆるの設定なので、どこか辻褄が 合わないところがあると思います。 ✣ノベルアップ+にて投稿しているオリジナル小説です。 ✣表紙は柚唄ソラ様のpixivよりお借りしました。 https://www.pixiv.net/artworks/90902111

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

形だけの正妃

杉本凪咲
恋愛
第二王子の正妃に選ばれた伯爵令嬢ローズ。 しかし数日後、側妃として王宮にやってきたオレンダに、王子は夢中になってしまう。 ローズは形だけの正妃となるが……

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

料理人がいく!

八神
ファンタジー
ある世界に天才料理人がいた。 ↓ 神にその腕を認められる。 ↓ なんやかんや異世界に飛ばされた。 ↓ ソコはレベルやステータスがあり、HPやMPが見える世界。 ↓ ソコの食材を使った料理を極めんとする事10年。 ↓ 主人公の住んでる山が戦場になる。 ↓ 物語が始まった。

処理中です...