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スズラン香る道の先
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「んで、彩ちゃん。デッサンが上手くならないって?」
「あ、はい…先生に、いつもいろいろ怒られてて……」
本格的に絵を描きはじめて間もない子供に怒るということが、オレには理解できなかった。初心者がいきなり上達するはずはないのだから、最初は見守った方がいいんじゃないのか。
「なんて怒られるわけ?」
「対象物を、ちゃんと見ていないって。そう言われても、一生懸命見て描いてるつもりなんですけど……」
「見せて」
「えっ?」
「それ、スケッチブックだろ?」
彩ちゃんが足元に置いている大きめのリュックの口から、リングノートのような物が僅かに見える。
「そう……です」
「とりあえず、見せて。絵を見ないと、何もわかんねぇ」
「わ、笑いません?下手すぎるって」
「人の絵を笑うかよ」
彩ちゃんはしばらく俯いた後、意を決してリュックの口を開けてスケッチブックを取り出した。それを受け取り、ページをめくる。
数ページにわたって人物や静物などのデッサンが描いてあるが、どれも遠近感が若干おかしい。手のデッサンも、明らかに構造を理解していない感じだな。
しかしデッサンの基本とも言える楕円の形は綺麗だ。どうやら基本図形はしっかり描けるらしいが……。
「……確かに、デッサン力があるかどうかって言われると、ないな」
ページをめくりながら独り言のように呟くと、彩ちゃんはガックリと肩を落とした。
「う……や、やっぱり……。どうしたら、デッサンが上手くなりますか?」
そもそも、デッサンが上手くならなければ絵を描けないわけではない。デッサンがすべての絵の基礎だと洗脳するような美術教育には、以前から疑問があった。明治以降に西洋の美術が入ってきた影響だろう。
確かに美大の入試には実技試験としてデッサンの課題があるから、美大を目指すのであればある程度の力量は必要になる。
藝大の入試にもデッサンはあるが、その課題の内容にはかなり癖があった。他の美大などは実技試験の傾向と対策があっても、藝大の場合はそれがない。テーマも何もなく「絵を描きなさい」というだけの、まるで禅問答のような問題が出た年もあると聞く。つまり、ただ絵が上手いだけでは合格できないということだ。
「彩ちゃんは、デッサンが上手くなりたくて美術科に入ったわけ?」
「ふぇっ?」
「わざわざ美術科がある高校を選んだんだろ?それは何でなのかって」
そもそも、この子はどういう絵を描きたくて美術科に入ったのか。オレはそれが知りたかった。
「あ、はい…先生に、いつもいろいろ怒られてて……」
本格的に絵を描きはじめて間もない子供に怒るということが、オレには理解できなかった。初心者がいきなり上達するはずはないのだから、最初は見守った方がいいんじゃないのか。
「なんて怒られるわけ?」
「対象物を、ちゃんと見ていないって。そう言われても、一生懸命見て描いてるつもりなんですけど……」
「見せて」
「えっ?」
「それ、スケッチブックだろ?」
彩ちゃんが足元に置いている大きめのリュックの口から、リングノートのような物が僅かに見える。
「そう……です」
「とりあえず、見せて。絵を見ないと、何もわかんねぇ」
「わ、笑いません?下手すぎるって」
「人の絵を笑うかよ」
彩ちゃんはしばらく俯いた後、意を決してリュックの口を開けてスケッチブックを取り出した。それを受け取り、ページをめくる。
数ページにわたって人物や静物などのデッサンが描いてあるが、どれも遠近感が若干おかしい。手のデッサンも、明らかに構造を理解していない感じだな。
しかしデッサンの基本とも言える楕円の形は綺麗だ。どうやら基本図形はしっかり描けるらしいが……。
「……確かに、デッサン力があるかどうかって言われると、ないな」
ページをめくりながら独り言のように呟くと、彩ちゃんはガックリと肩を落とした。
「う……や、やっぱり……。どうしたら、デッサンが上手くなりますか?」
そもそも、デッサンが上手くならなければ絵を描けないわけではない。デッサンがすべての絵の基礎だと洗脳するような美術教育には、以前から疑問があった。明治以降に西洋の美術が入ってきた影響だろう。
確かに美大の入試には実技試験としてデッサンの課題があるから、美大を目指すのであればある程度の力量は必要になる。
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「彩ちゃんは、デッサンが上手くなりたくて美術科に入ったわけ?」
「ふぇっ?」
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