ホウセンカ

えむら若奈

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野山を彩るハクサンチドリ

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「恋愛感情がなくても、その……で、できるものなのか?」
「できるっちゃできる」
「あ、浅尾は経験あるのか……」
「ただ、感情を殺したセックスほど虚しいもんはねぇからな。相手がいねぇなら、プロに金払ってやるのが一番なわけ。後腐れねぇし、割り切れるだろ」

 長岡にとっては刺激が強い話なのか、色黒な肌でもはっきりと分かるぐらい、赤面したままだ。

「……い、いや。俺は……やっぱり……最初は好きな子とがいい……」
「ふーん。まぁ、魔法使いになる前に経験できるといいな」

 他人の恋愛事情など、どうでもいい。そう思っているはずなのに、もしかするとオレ自身にも、少しばかり後ろめたい気持ちがあるのかもしれない。小林の恋愛については心からどうでもいいが。

「……なんか浅尾って、こういう話しない奴って思ってた」

 頭を搔きながら、長岡が照れくさそうに俯いた。
 
「こういう話ってー?」
「エロい……つ、艶っぽい話っていうか……」
「するに決まってんだろ。もともとエロいんだから」

 言いながらペットボトルの麦茶をコップに注いで一口飲むと、それを見た長岡が何故か口元に笑みを浮かべる。彼女に言われたからといって、こんな風にちまちまとペットボトル飲料を飲む姿が滑稽に映っているのかもしれない。
 
「浅尾って、こういう話だけじゃなくて恋愛に関しても……いや、全部かな。すべてにおいて、踏み込んでほしくなさそうな空気を放ってたし。私生活も謎だったから」
「前はそうだったかもな」
「6年間一緒だったのに、最近になってようやく浅尾の素顔を見てる気がするよ」

 長岡とは、高校3年間同じクラスだった。しかも少人数で分かれて受ける授業の時には、何故か必ず同じグループに組み分けられる。だから他のクラスメイトに比べて接点が多かったものの、長岡は大人しい性格だし、オレはオレで自分から話しかけることがほぼなかった。

 ただ会話は少なくても、お互いの絵を見れば通じるものがある。感覚的に合うと感じるからこそ、長岡とは大学入学後も何となくツルんでいた。

「まぁ本当に素顔を見せられる相手なんて、そうそういねぇけどな」
「……愛茉ちゃんだけってこと?」

 質問には答えず、また麦茶をコップへ注ぐ。

「ほら、また笑った」
「いちいちうるせぇよ。どいつもこいつも、人の笑顔を天然記念物扱いすんな」

 緩む口元を隠すように、長岡が鼻の下をこすった。
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