ホウセンカ

えむら若奈

文字の大きさ
上 下
138 / 407
約束のアングレカム

9

しおりを挟む
「ねぇ、今日のってプロポーズ?」

 お父さんを見送って桔平くんの家に帰宅してから、何気なく訊いてみた。

「プロポーズっつーか、決意表明だな」

 桔平くんは、ベッドの上へ上着を雑に放り投げた。そしてその横に腰かけて、髪をかき上げる。かなり伸びたなぁ。

「愛茉のためなら絵を捨てるっていう気持ちに嘘はないけど、今は画家として自分の限界までやっていきたいと思ってる。そのうえで愛茉と一緒に歩けるように……そういう自分になりたいっていう、決意表明」

 そう言って、おいでおいでと私を手招きする。近づくと、ベッドの端に座ったまま私の両手を取って真っ直ぐ見上げてきた。

「オレの人生で、愛茉より大切なものなんてないよ。何があっても、愛茉を守れる男になるから。だからずっと、オレの傍にいて。一緒に長生きして、一緒に死のうぜ」

 ……いつも難しい言い回しばかりするくせに、こういう時ストレートに言うのは本当にずるい。
 
「……それもう……プロポーズだよぉ……」

 まだメイク落としてないのに。絶対、マスカラぼろぼろだ。鼻水垂れてきたし。

「返事は?」
「……わ、私のどこがいいの?」
「ははっ、また始まった」
「だってずっと一緒にいたら、さすがに嫌になるでしょ?束縛するし、重いし、面倒だし、ワガママだし」
「嫌になんてならねぇよ。世界に80億以上の人間がいる中で、愛茉と出会ってんだから。分かる?80億分の1だよ。こんな奇跡、むざむざと手放すわけねぇだろ」

 80億分の1。この世界でたった1人の、大好きな人に出会える確率。こんなに大好きで大好きでたまらなくて、同じくらい、もしかしたらそれ以上愛情を注いでくれる人と出会えるなんて、本当に奇跡としか言いようがない。
 
「私だって……手放したくないもん。ずっと傍にいるから、ずっと私に構ってよ」

 ああ、可愛くない。なんでこんな言い方しちゃうのか。素直に「ハイ」って言える、可愛い女の子に産まれたかったよ。ていうか、めちゃくちゃ鼻声になってるじゃない。もうやだ、ほんとに。

「すげぇブサイクな顔」
「桔平くんのせいだもん」

 体を引き寄せられて、一緒にベッドへ倒れ込んだ。
 
「愛茉、愛してるよ」

 愛してほしい人に、愛されたい。桔平くんは、私がずっとずっと求めていたものをくれる人。
 だから私も覚悟を決めたの。桔平くんの世界は、私が全力で守る。決して絵を捨てさせない。

 桔平くんの愛情を全身で感じながら、私は心の中で固く誓った。

 それから10日ほど経って、空き巣が捕まったと警察から連絡が来た。犯人は、同じマンションの真上に住む若い男性。私以外の女性の下着もたくさん持っていたみたい。やっぱり女性のひとり暮らしっていろいろと怖い事も多いのだと実感する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※完結済み、手直ししながら随時upしていきます ※サムネにAI生成画像を使用しています

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

イケメンドクターは幼馴染み!夜の診察はベッドの上!?

すずなり。
恋愛
仕事帰りにケガをしてしまった私、かざね。 病院で診てくれた医師は幼馴染みだった! 「こんなにかわいくなって・・・。」 10年ぶりに再会した私たち。 お互いに気持ちを伝えられないまま・・・想いだけが加速していく。 かざね「どうしよう・・・私、ちーちゃんが好きだ。」 幼馴染『千秋』。 通称『ちーちゃん』。 きびしい一面もあるけど、優しい『ちーちゃん』。 千秋「かざねの側に・・・俺はいたい。」 自分の気持ちに気がついたあと、距離を詰めてくるのはかざねの仕事仲間の『ユウト』。 ユウト「今・・特定の『誰か』がいないなら・・・俺と付き合ってください。」 かざねは悩む。 かざね(ちーちゃんに振り向いてもらえないなら・・・・・・私がユウトさんを愛しさえすれば・・・・・忘れられる・・?) ※お話の中に出てくる病気や、治療法、職業内容などは全て架空のものです。 想像の中だけでお楽しみください。 ※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんの関係もありません。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 ただただ楽しんでいただけたら嬉しいです。 すずなり。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

夫の幼馴染が毎晩のように遊びにくる

ヘロディア
恋愛
数年前、主人公は結婚した。夫とは大学時代から知り合いで、五年ほど付き合った後に結婚を決めた。 正直結構ラブラブな方だと思っている。喧嘩の一つや二つはあるけれど、仲直りも早いし、お互いの嫌なところも受け入れられるくらいには愛しているつもりだ。 そう、あの女が私の前に立ちはだかるまでは…

私の心の薬箱~痛む胸を治してくれたのは、鬼畜上司のわかりづらい溺愛でした~

景華
恋愛
顔いっぱいの眼鏡をかけ、地味で自身のない水無瀬海月(みなせみつき)は、部署内でも浮いた存在だった。 そんな中初めてできた彼氏──村上優悟(むらかみゆうご)に、海月は束の間の幸せを感じるも、それは罰ゲームで告白したという残酷なもの。 真実を知り絶望する海月を叱咤激励し支えたのは、部署の鬼主任、和泉雪兎(いずみゆきと)だった。 彼に支えられながら、海月は自分の人生を大切に、自分を変えていこうと決意する。 自己肯定感が低いけれど芯の強い海月と、わかりづらい溺愛で彼女をずっと支えてきた雪兎。 じれながらも二人の恋が動き出す──。

【R18】豹変年下オオカミ君の恋愛包囲網〜策士な後輩から逃げられません!〜

湊未来
恋愛
「ねぇ、本当に陰キャの童貞だって信じてたの?経験豊富なお姉さん………」 30歳の誕生日当日、彼氏に呼び出された先は高級ホテルのレストラン。胸を高鳴らせ向かった先で見たものは、可愛らしいワンピースを着た女と腕を組み、こちらを見据える彼の姿だった。 一方的に別れを告げられ、ヤケ酒目的で向かったBAR。 「ねぇ。酔っちゃったの……… ………ふふふ…貴方に酔っちゃったみたい」 一夜のアバンチュールの筈だった。 運命とは時に残酷で甘い……… 羊の皮を被った年下オオカミ君×三十路崖っぷち女の恋愛攻防戦。 覗いて行きませんか? ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ・R18の話には※をつけます。 ・女性が男性を襲うシーンが初回にあります。苦手な方はご注意を。 ・裏テーマは『クズ男愛に目覚める』です。年上の女性に振り回されながら、愛を自覚し、更生するクズ男をゆるっく書けたらいいなぁ〜と。

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

処理中です...