ホウセンカ

えむら若奈

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白いアザレアを貴方へ

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「……この方、かけるんのお姉さん?」
「桔平の姉ちゃんだよ」
「えっ!」

 七海が目を見開いて、桔平くんと楓さんの顔を交互に見る。分かる。分かるよ、その反応。七海は桔平くんにお姉さんがいること自体知らなかっただろうし。そもそも周りから見たらミステリアスな雰囲気だから、家族っていう存在がイメージと結びつかないんだよね。
 
「おっと、そろそろ行かなきゃ。仕事、抜けてきたのよ」

 楓さんが腕時計を見て言った。やっぱりデザイナーって忙しいのかな。

「愛茉ちゃん。この子いろいろと危なっかしいけど、どうかよろしくね」
「は、はい」
「翔流もね」
「心配しなくても大丈夫だよ、楓姉ちゃん。最近のこいつ、めちゃくちゃ穏やかだから」

 翔流くんの言葉に、楓さんは安心したように優しく微笑む。あ、この表情。やっぱり桔平くんのお姉さんだ。

「じゃあね、桔平。自分の絵、描けるといいわね」

 そう言って楓さんは颯爽と去って行った。

 桔平くんが自分の絵を描くことで苦しんでいるって、楓さんも分かっているんだ。つまりここに展示されているのは、桔平くんの絵じゃない。

 多分桔平くんは、“浅尾瑛士の息子の絵”は苦しまずに描けているんだと思う。ひたすらお父さんの絵の模写をしていたって言うし、その作風も精神も自分の中に取り込んでいるはず。息子だから、なおさら。

 その代わり、家で絵を描く時は苦しんでいる。桔平くんにとって自分の絵を表に出すのは、相当勇気がいることなんだろうな。

「ビックリしたぁ。浅尾っちのお姉さん、めちゃくちゃ迫力美人だね」

 浅尾っち……。浅尾きゅんが却下だったから、小林さんの真似?七海の言葉に、桔平くんは苦笑いを返した。

「でかいだろ?一緒にいると目立つから嫌なんだよな」
「上のお姉さんも背が高いの?」
「そうだな。楓と同じくらい」
「浅尾っち、お姉さん2人いるんだ?」
「結婚してイタリアに住んでるから、楓以上に全然会わねぇけどな」
「うわぁ、桔平の絵すごいな」

 こちらの会話をまったく無視して、翔流くんが声を上げた。この人も結構マイペースなのね。

 人が少し捌けてきたから、気を取り直して桔平くんの絵を鑑賞することにした。
 翔流くんに続いて、七海も感嘆の声を上げる。大きめのキャンバスに描かれているのは、砂岩に囲まれた渓谷に神秘的な光が降り注いでいる光景。タイトルには「水が岩を流れる場所」と書いてあった。

「これって、アンテロープ・キャニオン?」
「そう」
「そういや、今年の春に行ってたよな。日本画の技法で描くの、すごいな」

 2人の会話についていけない私と七海。
 アンテロープ・キャニオン……?聞いたことあるような、ないような。
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