ホウセンカ

えむら若奈

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アンスリウムが咲く頃

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「今まで食った生姜焼きの中で一番だわ」

 桔平くんが、満面の笑みを浮かべている。
 お世辞かもしれないし、大袈裟な気もするけれど。ものすごく喜んでしまっている私は、やっぱりチョロい女なのかもしれない。

「お世辞じゃねぇからな」

 あ、また心を読まれた。そんなに分かりやすい顔してたかな。

「味噌汁の味もちょうどいいし、本当にウマいよ。愛茉は料理上手なんだな」
「でも、凝ったものは全然作れないよ」
「オレは別に、凝った料理が好きってわけじゃねぇし。毎日食いたいなって思うのは、こういうあったかい味だよ」

 あったかい味。その言葉が無性に嬉しくて。桔平くんが喜んでくれるなら、私も毎日作りたいって思っちゃう。

 ひと安心してお味噌汁を飲もうとしたら思ったより熱くて、ふうふうと息を吹きかけた。私のメガネが曇るのを見て、桔平くんが笑う。

 なんだかすごく、愛おしい時間。桔平くんと、この先もこんな時間をたくさん過ごせたらいいのにな。

 食べ終わった後は、当たり前のように片付けを手伝ってくれる。普段自炊をしないって言っている割に、お皿を洗う手際が妙に良かった。
 
「女が言う“大丈夫”は信用してなかったんだけど、もう本当に大丈夫そうだな」

 洗い物を終えてひと息ついた時、桔平くんが言った。さすが、女心をよく分かってる……。

「生理痛、いつも重いわけ?」
「頭痛と腹痛は辛いけど、今日みたいな貧血はあんまりないかな」
「病院で診てもらったことは?」
「え?ないけど……」
「下の姉が毎月生理痛ひどくてさ。婦人科で診てもらったら、子宮内膜症だったんだよね。愛茉も毎回頭痛と腹痛がひどいんなら、一度診てもらった方がいいんじゃねぇかな。毎月具合悪くなるの、辛いだろ」

 男の人は、こういう話には踏み込んでこないと思っていたんだけど。私のことを本当に心配してくれているんだなって感じる。

「でも婦人科行くのって、なんか抵抗あって」
「こういう相談ができる人、いないわけ?」
「うん……うち父子家庭だし。10歳の時に両親が離婚してから、母とは一度も会ってないの。それに私、友達いなかったから」

 ……しまった。ものすごく寂しい人間みたいな言い方になっちゃった。

「……い、いろいろ相談できる友達が、いなかったの」
「そっか。でもまぁ、自分の体を大事に出来るのは自分だけだからな。このへんで評判が良い病院ないか、知り合いにも訊いとくからさ」

 触れてほしくないことには、絶対に触れない。
 私のこと知りたいって言っていても必要以上に踏み込んでこないのは、やっぱり桔平くんが優しいからなんだと思う。
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