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家族
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水野の問い掛けに無視する事も出来ず、店主は表情を元に戻しスッと手元の布巾を持ちながら「今時は訳ありって言うんだね」と静かに言った。祐二たちは一瞬で店主の方に顔を向ける。何か聞けるかも、という僅かな期待に胸が高鳴った。
店主も一同に顔を覗き込まれて目を伏せると、んー、という渋い唸り声をあげて仕方なく水野の顔を見た。
「私が生まれた頃は、あの辺りに何軒も家があってね。親から聞いた話だと戦国時代にはあそこが処刑場だったとか。分からないよ、本当の話かどうかは。だけど、戦後のどさくさであそこにバラック小屋が建ち出して、知らないうちに普通に人が住める所になったみたい」
「じゃあ、あの家の周りにも人は住んでいたって事ですよね。いつから周りの家は無くなっていったんですか?」
さらに水野が訊ねると、店主は天井を見上げながら記憶を遡っているようだった。
「…..そうだなあ、あの事件があった頃には2、3軒になってたかな。」
「事件って、一家心中の?」
「ああそうだよ、よく知ってるねえ、古い事件なのに。あそこは父親が…..」
そう言いかけて口を閉ざす店主。何かを知っているのに隠している様だ。
なんとなく次の言葉が聞きたくて、祐二は「あそこの娘さんはどうなったんでしょうか?ご両親が亡くなって親戚にでも引き取られたんですかね」と訊ねた。すると店主の表情は一気に曇り祐二を見つめる。
「あの子は可哀想だったね。母親の再婚であの家に来たんだけど、あんな事になって。…..お母さんはちょっと病弱な感じだったけどさ、越して来てしばらくはこの店にも来た事あったよ」
「マスターはその子の顔とか覚えてます?」
水野が訊ねるが、「いやー、もう覚えてないなあ。なんかクマのぬいぐるみを抱きしめてた事くらいか」と言って苦笑いをする。
クマのぬいぐるみとは、あのテディベアの事だろうと、話を聞いていた祐二たちは思った。
「親戚も無かったみたいで、結局施設に預けられたんじゃないかな?」
店主はそう言うと眉根を下げて寂しそうな顔をする。
児童養護施設とは、なんらかの理由で手放された子供たちが居る場所。親戚があっても事情があって引き取れない場合もある。そういった子供たちが沢山いる事はざっくりとだが知っていた。
祐二は、ひょっとしたら自分も同じ身の上になっていたかもしれないと、そう考えると切なくなった。しかも、親の身勝手な問題で命を奪われそうになったのだ。可哀想な子だと、心の底から思っていた。
「オレも、あそこが元々昔の処刑場跡地って事で岬さんに言ったんですから。そこに廃墟って、凄くないですか?」
山里は出来るだけ小さな声で隣の祐二に言った。店主には聞かれたくなかったのかも。
あの家が最後に残ったのはどうしてなのか。店主が言い渋った父親の存在とは。聞けば聞くほどあの家の事が気になる祐二だった。
店主も一同に顔を覗き込まれて目を伏せると、んー、という渋い唸り声をあげて仕方なく水野の顔を見た。
「私が生まれた頃は、あの辺りに何軒も家があってね。親から聞いた話だと戦国時代にはあそこが処刑場だったとか。分からないよ、本当の話かどうかは。だけど、戦後のどさくさであそこにバラック小屋が建ち出して、知らないうちに普通に人が住める所になったみたい」
「じゃあ、あの家の周りにも人は住んでいたって事ですよね。いつから周りの家は無くなっていったんですか?」
さらに水野が訊ねると、店主は天井を見上げながら記憶を遡っているようだった。
「…..そうだなあ、あの事件があった頃には2、3軒になってたかな。」
「事件って、一家心中の?」
「ああそうだよ、よく知ってるねえ、古い事件なのに。あそこは父親が…..」
そう言いかけて口を閉ざす店主。何かを知っているのに隠している様だ。
なんとなく次の言葉が聞きたくて、祐二は「あそこの娘さんはどうなったんでしょうか?ご両親が亡くなって親戚にでも引き取られたんですかね」と訊ねた。すると店主の表情は一気に曇り祐二を見つめる。
「あの子は可哀想だったね。母親の再婚であの家に来たんだけど、あんな事になって。…..お母さんはちょっと病弱な感じだったけどさ、越して来てしばらくはこの店にも来た事あったよ」
「マスターはその子の顔とか覚えてます?」
水野が訊ねるが、「いやー、もう覚えてないなあ。なんかクマのぬいぐるみを抱きしめてた事くらいか」と言って苦笑いをする。
クマのぬいぐるみとは、あのテディベアの事だろうと、話を聞いていた祐二たちは思った。
「親戚も無かったみたいで、結局施設に預けられたんじゃないかな?」
店主はそう言うと眉根を下げて寂しそうな顔をする。
児童養護施設とは、なんらかの理由で手放された子供たちが居る場所。親戚があっても事情があって引き取れない場合もある。そういった子供たちが沢山いる事はざっくりとだが知っていた。
祐二は、ひょっとしたら自分も同じ身の上になっていたかもしれないと、そう考えると切なくなった。しかも、親の身勝手な問題で命を奪われそうになったのだ。可哀想な子だと、心の底から思っていた。
「オレも、あそこが元々昔の処刑場跡地って事で岬さんに言ったんですから。そこに廃墟って、凄くないですか?」
山里は出来るだけ小さな声で隣の祐二に言った。店主には聞かれたくなかったのかも。
あの家が最後に残ったのはどうしてなのか。店主が言い渋った父親の存在とは。聞けば聞くほどあの家の事が気になる祐二だった。
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