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23 アルミ箔のオンナ 5

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 パソコンに向かいながらも、意識は後ろの席にいる野嶋さんに向けられていた。

ずっと胸の奥がジクジクと疼く。
それが嫉妬の様なものだという事は理解できる。自己分析だとしても、きっとそういうモノなんだろう。
ただ、それならば恵が云ったように俺たちの関係を野嶋さんに告白してしまえばいいものを......
それは出来ないと思う自分に尚更苛立っている。



「あの、名古屋の案件ですが、工程表を出して頂きたいという電話が.........。」

ぼんやりしている俺に向かって、横に座る同僚が云った。
その手に受話器がある事で、俺宛の電話が入っているのだと分かると、「はい」と返事をして電話を替わる。

焦った。仕事中だというのに、大事な時期にぼんやりとおかしな事ばかりが頭を過ぎって。全く大人げないじゃないか............。


気を取り直して電話口で話を進める俺は、分厚い資料に目を落とす。



* * * 

昼休み。
同僚に誘われて近くの蕎麦屋に向かうと、偶然にも奥の席にいる恵と目が合った。

恵も同僚二人と来ているようで、俺に軽く笑みを投げるとそのまま会話を続けながら蕎麦を啜っている。
そんな些細な事にも、今日の俺は不安を募らせる。相席している同僚の一人は女性だったからだ。

俺の席にも女性はいた。事務の派遣社員の娘で、部下の男が誘ったから仕方がない。
自分の事は棚に上げておきながら、恵が女性と肩を並べるのは許せないとか........。
ほんと、どうにかしてくれという気持ちになると蕎麦の味も全く分からなくなった。


その後は、どうにか仕事に集中すると工程表の続きを打ち込み始める。
施工業社の出した資料に合わせて使用する資材をピックアップすると、それをまとめていく。

普段、営業で外ばかり出ていると、こうして椅子に座っていることが苦痛に思える。
しかもパソコンの入力作業は面倒で.....。
大まかなところは派遣の娘に打ち込んでもらうんだが、細かい所は自分で確認しながらの作業。結構肩もコる。



やっと終業時間になって、解放されると大きく伸びをした。

「お疲れ様です。肩こりましたか?」
派遣社員に訊かれて「うん、慣れない事はダメだねぇ、首が痛いよ。キミら、毎日ご苦労さんだね!ホント、感謝しちゃう。」と労った。

「うわぁ、田代さんに感謝されちゃったぁー。」
そう云うと笑顔で「お疲れ様でしたー。」と頭を下げ部屋を後にする。

「お疲れ様~」
口々に云いながら、なんとなく後ろの野嶋さんに目が行く。

今日は、そういえば言葉を交わしていないな。
俺がぼんやりしていたのもあるし、その後はパソコンとにらめっこをしていて必死の形相だっただろうから、きっと声も掛けづらかったのかも。

「お疲れ様。」
そう云って野嶋さんに声を掛けると、「あ、はい、お疲れ様でした。打ち込み大変ですね、細かくて....。」と言ってくれる。
やはり俺が必死だったのが分かったんだ。そっと、見守っていてくれたんだろうか。

彼女の微笑んだ目尻のしわが、何故だか愛らしく思えた。


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