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13 弱まる磁力 1-13

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  恵に「じゃあ行ってくる。明日の夜には帰るけど、晩飯は済ませておいて。」
そう告げて、いつもの時間より早めに出た俺。

「気を付けて。あ、飲み過ぎるなよ。」
出張の度にいわれる言葉を苦笑でやり過ごし、そんな事に少しだけ安心。

離れている時間には慣れた筈なのに、ほんの少しの心配の種が俺の中で根をはると、もうどうしようもなく不安に駆られるんだ。

恵と野嶋さんが同じビルで働いていたのが分かって、例えば昼飯を一緒にするとか……
帰りに飲みに行くとか……

そんな事ばかりが頭をよぎる。
こんな風に思ってしまうのは、恵が元々はノーマルな男だったから。
あいつ、野嶋さんがバイセクだったから、俺にも興味を持ったのかな…
それで、俺が恵を好きな事が分かって…

大阪へ着くまでの新幹線の中では、そんな事ばかり考えていた。
全く、自分が情けない。
どんなに恵を好きでも、この不安は付いてまわる。



新大阪から電車に乗り換え、最寄りの駅からタクシーに乗り込むと、取り引き先を目指す。
ビルが建ち並ぶ風景を目にすると、東京も変わらないな、と思った。
この辺りは交通の便もいいし、出張しても苦にはならない。ただ、車の運転は粗いのか、タクシーに乗ってもヒヤヒヤする事が多かった。


***
「……では、年末の工期に合わせて、商品は手配させて頂きます。もし、途中で変更などありましたら、早めに教えて頂けると助かります。よろしくお願いします。」
小さめの会議室で打合せをして、書類を確認すると鞄に入れた。

「そういえば、田代さん、うちの担当になってから何年になりますか?」

「え?私ですか?」

「はい、確か三年ぐらい前に、佐々木部長さんといらしたのが初めて、でしたかね。」

「あー、そうでしたね。あの頃は本当に色々不出来で。助けて頂きました、有難うございます。ま、今も助けて頂いてますが…はは、」
担当さんに頭をかきながらお礼を言う。
3年もこうして繋がって貰えて、本当に有難い。

「田代さん、彼女いるんでしょう?なんだか雰囲気変わりましたよね。」
そんな事を言われ、少しだけ焦る。
年齢的にはいてもいいんだけど、三年前って、恵と付き合い始めた頃かな…
今と雰囲気ちがうのか?

「彼女は居ないんですよね~、縁がなくて。」
いつもの逃げ口上。

「カッコイイのに、東京の女子は見る目が無いなぁ。」
ははは、と笑う担当さんに、こちらも笑顔を返す。取り繕うのも中々面倒だ。それに、31歲という年齢からして、付き合うイコール結婚、って事になる。結婚していない俺は、珍しい奴って思われてんのかな…


「ま、頑張ります。では、有難うございました。」

ようやく取引先をあとにすると、まだ早いがその足で名古屋を目指す事にした。


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