[ジセイタイになった俺]

42 何度でも引き合うよ 1

　身も蓋もない言い方をすれば.......

そもそも、ゲイの俺がノンケの恵とこうして3年も付き合えた事自体が奇跡なんだ。
その気になればいくらでも女の娘を恋人に出来た恵に、俺が好きだと伝えた事で同棲生活が始まった。

最初は〈お試し〉みたいなノリだったのかもしれない。恵にとっての俺は、多分野嶋さんを重ね合わせる存在だったのかも。
同性を好きになるという性癖の俺に興味が湧いたんだろうな。
まぁ、それでもここまで続けば興味だけって事でもなかったか。俺に好意を寄せていてくれた事は間違いない。

それを今頃になって、俺の方が女性に興味を示すだなんて。
呆れただろうな。

毎朝会社へ向かう道すがら、今日は恵の顔を見れるだろうか、なんてウブな学生の気分でいる俺。
エレベーター前でばったり会わないかとドキドキしたりして。
しかし、現実にはエレベーター前で会うのは会社の同僚か出社時間が同じ他社の社員だけ。

恵とは出社時間がずれていたし、フロアも違うから顔を合わせる事の方が稀だった。
会うとすれば、アイツが上のフロアからエレベーターに乗って降りて来る時。たまたま乗り込んだ俺と目が合ってニコリと微笑むその目元がすごく爽やかで。多分、俺は既に片想いをしていたのかもしれない。

こうして何日も恵の姿を見れないなんて、付き合ってから初めての事だ。
尚更、恵の存在が大きい事を実感する。俺にとっては、恵の居る場所が俺の生きる場所でもあるんだ。

項垂れてフロアを歩いていたのか、「どうした、田代。朝からしょぼくれてんな。まだこの前の案件引きずってんのか？」と、肩を叩かれて漸く床から視線をあげた俺。
フイッと肩に置かれた手の主を眺めると、同期入社の男。
部署は違うが、同期という事で何かと比べられる存在である男に、少しだけ悔しい気持ちが湧き上がる。

「おはよう森田。色々心配をかけて悪かったな。でも、もう大丈夫だ。ボツになったが資材は別の工事に回せる事になったし、損害は最小限に抑えられた。」
少しだけ明るく云うと、森田は「そうか、良かった。」と口角をあげた。

俺がうな垂れているのは、今は仕事の事ではなく個人的な案件についての事だった。が、それは話す訳にもいかず只笑みを浮べて強がりを云うしかなかった。