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悪くないかも

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 軽いくちづけをして離れると、驚きの眼で俺を見る祐斗。
まさか俺が本当にキスをするとは思わなかったのか?眼を開けたまま固まってしまった。

「おい、ラーメン伸びるから。」

 もう一度云うと、ハッと我に返って起き上がった祐斗は「ラーメンはどうでもいい。もう一回しよ。」と俺の腕を掴む。でも、俺にはその気がないから振り解いて背中を向けた。

「なーんだよ、もう!......まぁ、一歩前進したからいいけど.....」

 口を尖らせてカップラーメンを手に持つと、渋々啜りだした祐斗。俺は横目で見ながら『フフ』っと笑う。
俺も大概だけど、まあ、悪くはないかな。女の子と違ってベッタリするわけでもないし、祐斗もそれを望んでいる訳じゃないだろう。

「そういえばさ、おじさん。」

「ん?なに?」

 トンちゃんの事だと思って、ラーメンを呑み込むと祐斗の顔を見た。

「あ、違う、ハルキのパパの方。昨日の晩に見かけたな。」

「なーんだ、父さんの事か。時々青森まで行ってるから、駅で見かけた?」

「いや、隣町の駅前。」

「は?......隣町のって、.....仕事かなぁ。」

「徹さんと一緒だったよ。」

「.....え?..........アア、あの二人同じ仕事関係だから、かな。」

「仕事中って感じじゃなかったな。」

「どういう事だよ。きっとバッタリ出会ったんじゃないかな。たまたま、.....」

「............ん、そうかも、ね。」

 変な事を云う。別に二人が一緒に居ても不思議じゃないのに......。
そう思いながらも、俺の脳裏には子供の頃に見た景色が浮かんでいた。

 離れの部屋で、トンちゃんを呼びに云った俺が目にした光景。
父さんは俺を見てハッとしたし、トンちゃんは目を丸くして変な感じだった。
子供心に、これは記憶から消してしまおうと思ったほど、自分の中では得体のしれない不安なもの。
それがいま、祐斗の口から零れたひと言で浮かび上がって来る。


「早く食っちゃえよ。母さんのご飯食えなくなる。」

「うん、」

 急いで残りの麺を啜ってしまうと、ごみを片付けにキッチンへと行った。



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