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70.鍛錬の成果

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「行くっすよぉ! 手加減しないっす!」

 駆け出したのはダンだ。
 刃引きした剣を振りかぶって突っ込んでいく。
 迎え撃つのは杖を持ったアリーだ。

「おらぁ!」

 杖を剣に添えてクルリと回し受け流す。
 そのままクルリと先端をダンの腹に突き刺す。

「うっ!」

 前のめりになり倒れる。
 三ヶ月前は「ひゃっ!」とか「わわわわ!」とか言って避けるのに精一杯だったのだが。
 今となっては人が変わったように凛としている。

「ダン、もう終わり?」

「いててて……アリーさん強くなったっすねぇ。これでもCランクなんですけどねぇ」

 ダン達の暁は急速な成長を遂げた有望株として今この街では話題のパーティだ。
 一緒に冒険することになるので鍛錬も一緒にすれば仲も深まるし一石二鳥だと思ったのだ。

 そしたら、アリーが吸収率がすごく。
 やはり遺伝なのだろうか。
 戦闘のセンスが抜群だったのだ。

 弱かったあの頃のアリーは、もういない。

「ホントに、アリーは強くなったな。よく頑張った」

「ふふふっ。もっと褒めていいですよ? でも、強くなれたのはテツさんのおかげですよ。感謝してます」

 最近アリーが妖艶に笑う様になり、色気が増して来たのだ。
 大人になってきたのだろう。
 そういう俺も最近は筋肉が増強されて少し身体が大きくなった。

 ココ最近の鍛錬の賜物だろう。
 ダンとウィンも一回り身体が大きくなっていた。変わらないものといえば。

「アリーに勝てない……悔しい」

 頬を膨らませて不機嫌そうにしているのはフルルだ。
 実践訓練をするのはするのだが、いかんせん本職は魔法師である。

 近接戦闘は得意では無いのだ。
 その為、センスがあり実力が伸びてきたアリーには最近は勝てていないのだ。

「まぁ、フルルは魔法の方が大規模魔法まで使えるようになったんだろ? 凄いことだぞ?」

「ふふふ……もっと……褒めていい」

 頭をポンポンと撫でてしまう。
 これはなんというか反射的なものだろう。
 そうしたくさせる何かがフルルにはあるのだろう。

「じゃあ、次は俺が行きますよ」

 ウィンが前に出る身長も相まってデカイ。
 アリーに聞いたのだが、アリーの父親であるガイさんはウィンよりもデカイらしい。
 凄い大男ではないか。

「ふっ」

 ズドンッと振り下ろされた拳はアリーが避けたため、床に叩きつけられた。頑丈な床ではあるが、いつ壊れるかとヒヤヒヤしてしまう。

「足元がお留守よ?」

 膝裏を叩かれて膝カックンの様にカクッとなってしまった。
 バランスを整えようと前のめりになる。

「はい。終わり」

 顔が前に出てしまったところを狙われて顎を杖で下からすくい上げるように打ち抜かれた。

「がっ!」

 歯がガチッとなりかなり痛そう。
 ウィンは大丈夫だろうか。
 そのまま顎を抑えて床に転がる。

「ほら、だらしないわよ?」

 杖を顎に向けると光が溢れ出してキラキラと顎に吸い込まれていく。
 腫れていた顎が、元通りになった。
 これ、拷問みたいだな。

「ありがとうございます。アリーさん。けど、酷いですよ。マジで打ち抜くなんて……」

「だって、ウィンなんて大きいんだから本気で殴らないと攻撃続けるじゃない?」

 これはアリーの言うことに一理あるのだが。
 以前、ウィン相手に少し手加減してあげようと思い、軽く顎を叩いて「はい。おしまい」と言ったのにも関わらず攻撃の手を緩めなかったそうだ。

 それに嫌気がさしたアリーは本気で攻撃することにしたという訳。
 ウィンの負けず嫌いにも困ったものである。

「そうですね。そんな事もありました」

「じゃあ、最後には俺が相手するかな。それで終わりにするか」

 俺がそう提案するとアリーの目がつり上がった。アリーも負けん気が出てきたみたいなのだ。
 いい事なのだが、ちょっと調子に乗りつつある。

 アリーには申し訳ないが、師匠として少しここは気を引き締めさせないといけない。

「じゃあ、行くぞ?」

 左のジャブを放つ。
 杖で弾いて突きで反撃してくる。
 それを円の動きで腕に絡める。

 咄嗟に杖を引いた。
 取られると分かったんだろう。
 懸命だ。

 だが、引いたということは俺が攻撃に回るということ。
 前に行き軽く足を蹴り上げる。
 それにつられて下段蹴りで足を払いに来た。

 すぐ様バックステップで避け。
 空振りしてバランスを崩しているアリーに、肉薄する。
 顎に掌底をピタッと当てた。

「ふぅー。やはり一筋縄じゃ行かなくなっているな?」

「もぉー。折角良いイメージで終われる所だったんですよ? 酷いです」

 アリーは頬をふくらませて怒っている。
 腕組みまでして怒りを露わにする。

「でもな、アリーに驕りが無かったと言えるか? 俺は、アリーが少し強くなった優越感に浸っている気がした。俺は、前世でそういう奴が次々死んでいくのを見ていた。アリーには死んで欲しくない」

 そう。前世の記憶がアリーの状態には警笛をならしていた。
 このままだと油断して死ぬような事態になりかねないと、そう感じていた。

 だから、今の内に気を引き締めた方がいいと思ったのだ。

「もぅ。テツさんったら。わかってますよぉ。私は、死にません!」

 アリーは俺が絶対守る。
 そう、再び心に誓うのであった。
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