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69.アリー、冒険者になる

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 次の日、目が覚めたのは昼頃だった。
 寝坊してしまったな。
 そう思いながらリビングに行くと。

 恥ずかしそうにずっと下を向いているアリーがいた。
 なんだかこちらを見てモジモジしている。
 どうしたんだ?

「テツさん、昨日は……すみませんでした」

 頭を下げた。

「何を頭を下げる事があるんだ?」

「昨日……寝ちゃったって聞きました。ずっと肩に頭を乗せていたとか。しかも……キスまで……恥ずかしくて死にそうです」

「うむ。恥ずかしさで死んだ者は見たこと無かったなぁ」

「そ、それは冗談ですよぉ。恥ずかしさで死なないのは知ってますぅ」

「あぁ。すまん。冗談だと気付かず……俺もな。昨日はみんなに散々からかわれたんだ。だがな。決心ができた。ここは俺の帰る場所。そこに皆がいれば……俺はなんでも出来るってな。アリー。今日は冒険者登録をしに行くぞ?」

「えっ!? 私も冒険者になるんですか?」

 目を剥いて驚いている。
 何を驚く事があるのか。
 一緒に冒険に出るのだ、当たり前だろう。

「そうだ。準備が出来たなら行くぞ?」

「は、はい!」

 何やら緊張している。
 冒険者ギルドに行くのがそんなに緊張するんだろうか?

「ふふふっ。テツくん、ありがとね。アリーのワガママを聞いてくれて。そして、もしガイが生きてたら一発殴って来てちょうだい。悲しませた罰よ」

「分かりました。もし本当にガイさん本人だったら殴っておきます」

 そうだ。まだムルガ王国にいるのはガイさんだとは分からない。
 それに、治安が悪いらしいから少し気を引きしめて行かなければ。

 俺の絶対防御の発動の仕方や使い方を考えて使いこなさなければな。
 それは、アリーの鍛錬と一緒に鍛えなければならない課題だ。

「テツさん、準備出来ました」

「よし、行こう」

「行ってらっしゃい!」

 ミリーさんに見送られて家を出る。
 フルルは昨日遅くまで起きていたからまだ寝てるらしい。
 もう昼過ぎだけどな。

 けど、長く寝れるのは体力がある証拠だと言うからな。
 寝たいと思えば好きなだけ寝れるだろう。
 俺は時間の無駄な気がしてあまり長く寝たくない。

 ギルドに着くと眠そうにしているサナさんがいた。目の下にはクマを作りすごく不機嫌そうだ。

「サナさん。アリーの冒険者登録に来たんですけど……」

「そう。プレートに魔力流して?」

 凄く面倒臭そうにしている。
 恐らく、昨日遅かったのに今日が早番だったのだろう。
 気の毒に。

「えっ……と。こうだっけ?」

 プレートが反応した。
 アリーは魔力を使ったことがあまりない為に出力するのも久しぶりのよう。

「はぁい。あぁ。アリーは回復魔法に適性があるのね。それじゃあ、ヒーラーとして冒険者に登録っと……オッケーできた」

「ありがとうございます! 私、回復魔法使えたんですね!」

 アリーの笑顔はやはり癒される。
 けど、これからは命を張る戦士として生きていかなければならない。
 気を引き締めなければ。

「アリー、まずは自分の身を守れる位には強くなってもらうぞ?」

「はい!」

「今日から早速訓練するか?」

「お願いします!」

 訓練所を借りることにした。
 そして、やはり最初は重要な柔軟を教える。
 アリーは比較的柔らかく、少しすれば俺と同じくらいまで出来そうだ。

「これって、テツさんに教えてもらった人皆やってるんですか?」

「あぁ、多分な。ジンさんにも教えたが……」

「この前、広場でやってる人見たんですよ。もしかして、テツさんが教えたのかなと……」

「いや、アリーが知らない人なら俺が教えては居ないだろう。暁の奴らかジンさんから聞いたんじゃないか?」

 後で聞いたのだが、暁が強くなり始めてから強くなる秘訣を聞かれてこの柔軟の話をしたらしいのだ。
 そしたらそれが広まり、今やこの街のブームになっているらしい。

「俺は、実戦形式でしか教えることが出来ないから、実践をしながら教えていくぞ?」

「はい!」

「まず、戦う時の基本の構えは利き腕を顔の近くに持ってきて構える。そして、利き腕じゃない方を少し前に構えるんだ」

「こ、こう……ですか?」

 何やらぎこちないアリー。
 戦うのは初めてだから仕方がないだろう。
 これから良くなっていくのだ。

「少し内股だな。足を真っ直ぐに立つんだ」

 足を真っ直ぐにしようとするが、今まで生きてきて付いてしまった癖はなかなか治らない。
 これも徐々に治すしかないな。

「こうですか?」

「あぁ。いい感じだ。そして、攻撃する時はこっちの腕をこう真っ直ぐに突くんだ」

 アリーの拳を持ち、突きの出し方を実際に動かして覚えさせる。

「その後、こっちの利き腕の方で……突く。分かるか?」

 アリーが見様見真似でワンツーをする。
 その動きを基本として始める事にしよう。
 一番覚えやすいのがこの形だからな。

「そうだ。これが戦う時の基本の動作。アリーはヒーラーだから杖を持つな。杖術も教えるからな」

「は、はい!」

 顔が強ばっている。
 こんなに初日で言われたら頭がパンクしてしまうな。
 このくらいにしておいた方がいいか。

「よしっ。今日はこの位にして、後は本格的には明日から始めようか」

「はい!」

 こうして、アリーの鍛錬は始まった。

 教えていたら楽しくて、予定の1ヶ月を過ぎて三ヶ月鍛錬をしたのであった。
 入念に鍛錬したことで、アリーは俺の予想以上に強くなった。
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