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55.街の検問

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「昨夜何かありました? なんか手首が痛くて……」

「私も寝ちゃってたみたいで……」

「何かぐっすりだったよなぁ?」

 俺とヒロは苦笑いを浮かべる。
 襲撃を受けたが、眠らされていたが為にただ熟睡していたとしか思っていないようだ。
 騎士よ。それで大丈夫なのか?

「昨日の夜は賊の夜襲があったんですよ」

「なんですと!?」
「それは本当ですか!?」
「なぜ気づかなかった!? まさか……」

 騎士の一人は気付いたようだ。
 何も気づかず眠っていたということは。

「毒ですか?」

「はい。その類の物でしょうね。匂いで眠りを誘う物だったみたいですが」

「くっ。何も役に立たず、面目無い」

「仕方ないですよ。耐性があるのはボクとテツくらいなものでしょうから」

 あの拷問のような訓練はしたくないが。
 今役に立っていることには正直に言うと感謝しているところが大きい。
 この耐性があることでアリーの為にこうして旅ができているのだから。

「お二人はどのような訓練を……?」

「ボクは……ちょっと思い出したくないなぁ」

「俺も思い出したくないが、地獄だったな」

 二人の目が遠くなっているのを見て騎士達は察した。この二人が強いのはその地獄があったからなんだと。

 騎士達の目には同情の感情が浮かんでいた。
 騎士達よ。同情するくらいなら訓練をしろ。
 もっと強くなるんだ。

「是非やってみたらどうだ? 騎士団でも訓練に取り入れてみては? 最初は少量の毒から始めれば大丈夫だ」

「いやいやいやいや! 騎士が毒を扱うなど、ダメです! 正々堂々に強くなくては!」

「そう言ってて、俺かヒロが居なければ、昨日命を落としてるんだぞ?」

「むむむ……。考えておきます」

 逃げるように野営の片付けに行った。
 昨日のように毒を使ってくる賊も居るのだからな。毒に慣れていて悪いことはないと思うのだが。

 中々あれも毒の量を調整するのが至難の業らしいからな。あの訓練で分量を間違えられた同僚が死んでいたからな。

 俺も野営の片付けをする。
 終わったらパンをかじって朝ごはんだ。
 水で流し込む。

 皆、朝はそんなもののようだ。
 周りを見ると皆がパンをかじっている。

「やっぱり街道に近かったから狙われたのかな?」

「そうだろうな。この大所帯だし目立ったんじゃないか? 女もいるしな」

 チラッとレイとアケミに視線を移す。
 二人はスタイルがよく男の目を引く。
 賊の目に止まってもおかしくはない。

「そういえば、昨日の戦利品どうした?」

「あそこにまとめてある。必要なのは取っていらないのは次の街で売ろう」
 
「あっ! 俺にも見せろよ! なになに?」

 アイツもグースカ寝ていたのだが、なんとも思ってないのだ。
 さっき騎士団長に賊が出て俺とヒロには効果がなかったって言った時も「さすが師匠」とかいって自分が未熟だとかそんな事は一つも考えていなかった。

 そういう所もいいのかもしれないけどな。
 前向きで。暁三人組みたいな感じか。
 なら仕方がないかもしれないな。

「騎士団の方々も欲しいのあったら取ってって下さいね」

「武器は多い方が良いですものな」

 ワラワラと戦利品に集まって自分の思い思いの武器を取っていく。
 余った武器をまとめて持っていくことに。
 次の街で売ろう。

 片付け終えると次の街に向けて進んで行った。

◇◆◇

 次の野営から少し森に入って街道から見えない位置で野営するようにし、一週間がたった頃。

「あっ! 見えてきましたよ! あそこの街で補給しましょう!」

「おぉ。なんか栄えてるね」

「そうですね! この距離でも聖都に近い街ですからね」

 遠くからでもわかるくらい街の中が賑わっている。魔物を寄せ付けないための壁もしっかりしていて、入口には少し入る人の列ができている。

「あれは、なんの列だ?」

「あれは……害の無い者かどうかの検査をされている様ですね」

 俺が聞くと騎士団長が答えてくれた。
 騎士達は前で念の為に警戒している。
 街が見える位まで来れば魔物も居ないだろうけどな。

「検問みたいなもんか?」

「そうだろうね。なんだか、物々しいね」

 ヒロも怪訝な顔をしながら街に向かう。
 すると騎士達が先に街に行って通してもらうように言ってくるとの事。
 しばらくすると暗い顔で戻ってきた。

「勇者様達だから通せと言ったんだが、信用出来ないの一点張りで……並ばないと行けないみたいです」

「それは構いませんよ? ねっ? テツ?」

「あぁ。みんな並んでるんだからな。俺達も並ぶのが普通だろう」

 騎士達が俺とヒロの言葉に目を剥いて驚いている。勇者というくらいだから偉そうなイメージなんだろうか?

「左様ですか。勇者様によって色々なタイプの方がいたと言い伝えられておりまして、ヒロ殿はあまり横柄なタイプの方では無いとはわかっては居たのですが……」

「テツが意外だった?」

「はい……その強さがありながら……」

「テツは強さをひけらかす奴は好きじゃないんだ。だから、テツもひけらかしたりはしない」

「はっ!」

 ビッと敬礼をして進んでいく。
 自分が誤解していたのが恥ずかしくなったのか、気まずくなったのか。

 列にみんなで並ぶ。
 三十分位待っただろうか。
 順番が来た。

「さっきの騎士さん達か。胸のエンブレムは聖都の物だが、そっちが勇者さん? 勇者さんである証明はある?」

「んー。ないですね」

「何か身分を証明するものは?」

「ないですね」

 これは入れないということか?
 証明できなければいけない。
 となると……。

「誰か、冒険者カードは?」

「僕達は勇者であって冒険者じゃ────」

「あぁ、俺がある」

 俺があったんだった。
 すっかりと頭から抜けていた。
 カードを差し出すと少し見てすぐに返された。

 ビッと敬礼をして通路を開ける。

「失礼しました! Bランク冒険者の方とは知らずに申し訳ありません! 問題ありませんので、お通りください!」

「あぁ。別にいい。この検査は何故やってるんだ?」

 俺が疑問に思ったことを聞いてみた。
 すると、明確な返事が返ってきた。

「│黒い狼《ブラックヴォルフ》という盗賊達が近くで暴れているという目撃情報がありまして」

「それって、いつの情報だ?」

「一週間少し前位でしょうか」

 それなら俺達が潰した盗賊ではないか?

「俺達実は、一つ盗賊団を潰してきたんだ」

「えっ!?」

 自警団の男が目を見開いて驚いている。
 そんなに驚くことか?
 驚いているのには理由がありそうだ。
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