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9.制圧

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「亜希。思った通りだったみたいだ」

 依頼人の方を向いて話す。
 少しずつ入口の方に下がりながら。

「せーので逃げるぞ」

「「せーのっ!」」

 二人は駆け出しだ。
 元彼が呆然としている。
 何が起こっているのか分からないんだろう。
 
 無線機を繋げる。

「そっちに依頼人逃がします。ピックアップお願いします。その後は俺は置いて行ってください!」

『わかった! 拾う。ホントに置いていっていいのか!?』

「その方が動きやすいです!」

『わかった』

 無線機から返事が帰ってきたと同時に。
 後ろからゴロツキ共が追いかけて来た。
 目を釣りあげて駆けてくる。

 こんなか弱そうな女性に一体何をしようとして人を呼んだんだ?
 想像しただけで腸《はらわた》が煮えくり返る。
 コイツらはタダで返しちゃいけねぇ。

 扉を開けるとそこには見知った顔があった。
 よしさんが待ち構えていてくれた。

「後は頼みます!」

 そう言って亜紀さんを渡すと扉を閉めた。
 そして、扉を前に仁王立ち。
 ゴロツキ共はナイフやらバットやらバールやら。

 色んな凶器を持ってきていた。
 振りかぶって襲ってくる。
 咄嗟にしゃがむ。

 甲高い音を立てて扉に、凶器が当たる。
 火花を散らしている。

 下から順番に足を潰していく。
「ぐわぁ」とか「がぁぁ」と言いながら。
 地面に倒れ込む。

 周りの奴らはわけが分かっていない。
 下から顎を打ち据え次々と倒していく。

『さっき凄い音がしたけど、大丈夫?』

「こちら亮。大丈夫です。問題───」

 バットが迫る。
 体を横にして避ける。

「ありません!」

 カウンターで拳が下顎に当たる。
 グラリと体を揺らすと倒れた。

 ゴロツキに囲まれる。
 冷静に顔の前に拳を構える。
 このくらいなら警棒を使うまでもない。

 この状態はコチラからは行けない。
 ただひたすらに待つ。
 
 我慢のきかないゴロツキは必ず突っ込んでくる。
 少し均衡した時間が過ぎる。

「うらぁぁぁ!」

 後ろからバットを振りかぶってきた男。
 振る瞬間に少し横に押して自分も身体をずれる。
 バギッと違うやつの頭を勝ち割ったようだ。

 掌底を下顎に放ち、沈める。
 それを皮切りに次々と襲い掛かってきた。
 今となってはこいつ等の動きなんぞ見破るのはたやすい。

「ファイヤーボール!」

 咄嗟に転がると違うやつに当たったようだ。
 こんな混戦で魔法とか何も考えていない様だな。

 一撃も受けることなく襲い来る敵を捌く。
 ナイフは受け止めて手をひねり地面に落として。
 指をひねり上げる。

 軽く関節を外してもう物を持てなくする。
 個々では勝てないと思ったのか数で押しに来た。
 壁を作ってこちらに来る。

 タンッとジャンプして肩伝いに後ろへ。
 あの入口はもう開けられても亜希さんは逃げたからもう居ない。
 中央に陣取る。

 俺は全方位囲まれている方がやりやすいタイプだ。
 殴りかかってきた敵の拳を受け流して後ろの奴の顔面を殴る。

 そうすると何が起きるか。
 こういう馬鹿どもの場合は。
 殴られたやつが味方だろうと殴り返すのだ。

 それが連鎖していき。
 大乱闘になる。
 こうなれば、もう誰が敵なのか分からない。

 密かに元彼に近づいていく。
 後ろから話し掛ける。

「前を向いたまま話を聞け。そうすれば何もしない」

 ビクッとなるが大人しく話を聞くようだ。

「後日、もしやり返したりする事があった場合。どんな手を使ってでもお前の命を頂く。わかったか」

 震えながらコクリと頷いた。
 立場がちゃんと分かっているようだ。

 話にならないバカはすぐに殴りかかってくるし、動かなく出来なくするまでコテンパンにやらないとダメな奴もいる。

 元彼は震えながら何かを持っているようだ。
 ん?
 何持って────

「あああぁぁぁぁぁ!」

 手に持ったナイフで切りかかってきた。
 即座に横に避けて指をひねりあげる。
 そのまま地面へと叩きつけた。

「がっ!」

 うつ伏せになったが。
 まだ、ナイフを取ろうともがいている。
 腕を動かせないように肩を外す。

「がぁぁぁ」

「うるさい。おい!」

 髪を掴んで頭を上げさせる。
 顔を近づけ忠告する。

「今のは見逃してやる。警告で肩を外した。今後も監視する。動きを見せたら即座に殺す。いいな?」

 コクコクコクコクとすぐに頷いた。
 まぁ、しばらくは監視の必要がありそうだが。
 他にも前科がありそうだ。

 しばらくは出てこれないだろう。
 遠くで、サイレンの音が聞こえる。
 警察だ。

「俺は見てるからな」

 耳元でそれだけ言って離れる。

 これで動かないと思うが。
 これで動いたらまた警察に連絡しなければ。
 俺達の立場ではその辺は何も出来ないからな。

 混乱に乗じて外に出る。
 身だしなみを整え。
 外に置いていたカバンをとる。

 メガネを取り出してかけて。
 スタスタと歩き出し、大きい通りに向かう。
 大通りに出たところで人混みに紛れた。

 車道をパトカーが通り過ぎていく。
 警察官とのやり取りは打ち合わせ済み。
 
 誰にやられたか聞いても奴らは亜希の彼氏としか知らない。
 亜希を当たるともう別れててどこにいるかも知らないし、偽名を使ってて自分も騙されたと愚痴れば警察は面倒になり手を引くだろう。

 そういう筋書きを護さんが考えてくれた。
 だから俺もあまり怪我はさせないように関節を外したり急所を一撃で仕留めたりしていたのだ。

 被害が大きくなければゴロツキ同士の争いとしてそんなに調べたりはしない。
 あれだけ車が集まったんだ。
 誰かが通報したんだろう。
 
 近くの路地に入りスマホで連絡を取る。

『もしもし。亮くん、無事かい?』

「はい。何ともありません。迎えお願いします。場所は…………」

 こうして初任務は無事に?終わったのだった。
 ある意味、終わりでは無かったのだが。
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