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ザイールは伯爵家に来ても構わないし、辺境に住んでも構わないとナターシャが決めればいいと言った。

伯爵夫妻も、カリンがサリーの娘でなかったとしても引き取ってもいいし、ナターシャの子供を跡継ぎにしてもいいと言ってくれた。

記憶を取り戻すために伯爵領にも行ってみたかったけど、妊娠中なので今は行けない。

正直な気持ちを言うと、覚えていないここよりも辺境伯領に住みたい気持ちがあった。

ザイールはとても私を大切にしてくれる。
あの日のことを覚えていないのは残念だけど、2度目の初めてのキスも経験した。
額や頬へのキスは周りに誰がいても気にせずするし、横抱きにされて移動されたりもする。

結婚の手続きが必要なので、一度辺境に帰るという。
姉の調査も途中なので、進捗状況を確認してくるそうだ。 

安定期まではここにいることになるけど、どちらで暮らすかを決めなければならない。




そんなある日、気分がいいのでカリンと近くの公園に行くことにした。
もちろんザイールと護衛も一緒に。

散歩を楽しんだ帰り、私が好きだったというお菓子のお店を護衛に教えてもらって向かっていると、声をかけられた。
 

「ナターシャ、戻っているってのは本当だったんだな。じゃあまた婚約するぞ。」

前に頬を叩いてきた男だった。元婚約者。……なぜか浮浪者みたいに見えるけど。
彼はカリンに手を伸ばして捕まえた。

「お前の子供じゃないんだろ?こいつが伯爵家の跡継ぎかと思ってたよ。 
 お前は俺と結婚して、俺の子供が跡継ぎになるんだ。そうだろ?」

「その子を離してください。」

「お前が俺と結婚するって言うならな。護衛、動くなよ。このガキ傷つけるぞ。」

人が集まってきた。この男は逃げられると思っているのだろうか?
遠くに騎士が走ってくるのも見える。時間を稼げばいい?カリンは傷つかない?

「お願い。離して?」

「ガキの代わりにお前が来いよ。俺と一緒に結婚届を出しに行くぞ。」

「ナターシャ、行くな。危ない。」

「っでも……」

いつの間にか周りは騎士に囲まれていた。
それに気づいた元婚約者は狼狽え、カリンをザイールに投げて、私の腕を掴んだ。

しかし、騎士たちが元婚約者を捕まえようとして、元婚約者は邪魔になった私を突き飛ばした。

ザイールが手を伸ばしたが間に合わず、私は壁にぶつかった後、地面に倒れた。




 

意識が浮上したのは、外が暗くなっていた頃。

目を覚ますと手を握っている男性が言った。


「ナターシャ、目覚めてよかった。お腹の子供も無事だ。痛いところはない?」


え?ここはどこ?……王都の私の部屋?

どういうこと?

助かったの?

助けてくれたの?

…ん?お腹の子供?

とりあえずこの人の目は私を心配していると言っている。


私の困惑に気づいたのか、男性が確認するようにゆっくりと話す。

「カリンも無事だよ?覚えてる?」

カリン?

カーラじゃなくて?

え?カーラはどこ?

とりあえず、


「……あなたは誰?」


  

  
 
 
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