上 下
4 / 21

4.

しおりを挟む
 
 
辺境伯の屋敷を訪れた使用人たちは、人を探していることを伝えた。
 
ここで侍女をしているのではないかと聞いたので、侍女長か執事に取り次いでほしいと頼んだ。

屋敷内に通された使用人たちは、侍女長にナターシャの特徴を伝えた。

「ナターシャを訪ねてくる人がいればこの辺境伯のお屋敷に連絡がほしいとの伝言がありました。」

それで伺ったのですが、と使用人たちは必至に説明した。



「なるほど。隣国の伯爵家の令嬢が行方不明に。
 そして、そのナターシャ様と思われる方がここで侍女をしているのではないか。
 そういうことですね?」

「そうです。お心当たりはございませんか?」

「……ええ。ナターシャ様だと断定はできませんが、2年前からある女性が働いています。」

「会わせていただけませんか?お嬢様か確認させてください。
 伯爵夫妻もずっとお帰りをお待ちしているのです。お願いします。」

一斉に使用人たちは頭を下げた。

「会わせるのは構いません。ですが、その女性は記憶がないのです。
 あなた方を見ても思い出さない場合はお渡しすることはできません。」

「記憶が?!…わかりました。ひとまず確認させてください。」

「では連れて参りますので、こちらでお待ちください。」


 
侍女長は『エリス』さんを連れて来るように使用人に頼んだ。

「エリスさん、ですか。お名前も何も記憶にないのですか?」

侍女長に確認した。

「ええ。人物は誰ひとり覚えていませんでした。
 2年前、森の中で倒れていたそうです。
 荷物もありませんでしたが乳飲み子を抱いていました。」

「乳飲み子?なぜ?」

「ナターシャ様は妊娠または出産のご経験は?」

「いえいえ、とんでもない。まだ16歳になったばかりでした。」

使用人一同は首を傾げるしかなかった。

「サリー様のお子様とか?」

「いや、カーラ様はサリー様と亡くなったんだろう?そんなはずはない。」



そんな会話をしていると、扉がノックされて女性が入ってきた。

「ナターシャ様!ご無事で。」

見間違えるはずはない。間違いなくナターシャだと使用人たちは口々に言った。


「エリスさん、どうですか?彼らに見覚えは?」

侍女長に聞かれたエリスは首を横に振った。

「お嬢様、モリーです。ナターシャお嬢様の侍女をしておりました。」
 
「……ごめんなさい。思い出せないわ。私は貴族だったの?」

「はい。隣国の伯爵家のご令嬢です。今は18歳におなりです。」

「そうなのね。家族は?」

「伯爵様ご夫妻と、あとお姉様がおられましたが2年前にお亡くなりに……」

「そう……」
 

再び扉がノックされ、今度は辺境伯夫人とカリンが入ってきた。

「こちらはお世話になっている辺境伯夫人です。」

使用人たちは一斉に頭を下げた。

「おかーさま。」

近寄ってきたカリンを、私と一緒に見つかった子だと話した。

すると、使用人からサリー様という声があがる。

「サリー様って?」

「ナターシャ様の亡くなられたお姉様です。こちらのお嬢様はサリー様によく似ておられて。
 サリー様のお子様、カーラ様も2年前に流行り病でお亡くなりになったのですが……」

使用人たちは、カリンの顔を見て驚いている。


「詳しい話を聞きたいわ。」


辺境伯夫人は興味を示した。エリスの記憶が戻らなくても調査の参考にはなる。


 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様は甘かった

松石 愛弓
恋愛
伯爵夫妻のフィリオとマリアは仲の良い夫婦。溺愛してくれていたはずの夫は、なぜかピンクブロンド美女と浮気?どうすればいいの?と悩むマリアに救世主が現れ?

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

自殺した妻を幸せにする方法

久留茶
恋愛
平民出身の英雄アトラスと、国一番の高貴な身分の公爵令嬢アリアドネが王命により結婚した。 アリアドネは英雄アトラスのファンであり、この結婚をとても喜んだが、身分差別の強いこの国において、平民出のアトラスは貴族を激しく憎んでおり、結婚式後、妻となったアリアドネに対し、冷たい態度を取り続けていた。 それに対し、傷付き悲しみながらも必死で夫アトラスを支えるアリアドネだったが、ある日、戦にて屋敷を留守にしているアトラスのもとにアリアドネが亡くなったとの報せが届く。 アリアドネの死によって、アトラスは今迄の自分の妻に対する行いを激しく後悔する。 そしてアトラスは亡くなったアリアドネの為にある決意をし、行動を開始するのであった。 *小説家になろうにも掲載しています。 *前半は暗めですが、後半は甘めの展開となっています。 *少し長めの短編となっていますが、最後まで読んで頂けると嬉しいです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

この願いが叶うなら

豆狸
恋愛
──お願いです。 どうか、あの人を守ってください。 私の大切な、愛しい愛しいあの人を。 なろう様でも公開中です。

この影から目を逸らす

豆狸
恋愛
愛してるよ、テレサ。これまでもこれからも、ずっと── なろう様でも公開中です。 ※1/11タイトルから『。』を外しました。

処理中です...