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しおりを挟む辺境伯の屋敷を訪れた使用人たちは、人を探していることを伝えた。
ここで侍女をしているのではないかと聞いたので、侍女長か執事に取り次いでほしいと頼んだ。
屋敷内に通された使用人たちは、侍女長にナターシャの特徴を伝えた。
「ナターシャを訪ねてくる人がいればこの辺境伯のお屋敷に連絡がほしいとの伝言がありました。」
それで伺ったのですが、と使用人たちは必至に説明した。
「なるほど。隣国の伯爵家の令嬢が行方不明に。
そして、そのナターシャ様と思われる方がここで侍女をしているのではないか。
そういうことですね?」
「そうです。お心当たりはございませんか?」
「……ええ。ナターシャ様だと断定はできませんが、2年前からある女性が働いています。」
「会わせていただけませんか?お嬢様か確認させてください。
伯爵夫妻もずっとお帰りをお待ちしているのです。お願いします。」
一斉に使用人たちは頭を下げた。
「会わせるのは構いません。ですが、その女性は記憶がないのです。
あなた方を見ても思い出さない場合はお渡しすることはできません。」
「記憶が?!…わかりました。ひとまず確認させてください。」
「では連れて参りますので、こちらでお待ちください。」
侍女長は『エリス』さんを連れて来るように使用人に頼んだ。
「エリスさん、ですか。お名前も何も記憶にないのですか?」
侍女長に確認した。
「ええ。人物は誰ひとり覚えていませんでした。
2年前、森の中で倒れていたそうです。
荷物もありませんでしたが乳飲み子を抱いていました。」
「乳飲み子?なぜ?」
「ナターシャ様は妊娠または出産のご経験は?」
「いえいえ、とんでもない。まだ16歳になったばかりでした。」
使用人一同は首を傾げるしかなかった。
「サリー様のお子様とか?」
「いや、カーラ様はサリー様と亡くなったんだろう?そんなはずはない。」
そんな会話をしていると、扉がノックされて女性が入ってきた。
「ナターシャ様!ご無事で。」
見間違えるはずはない。間違いなくナターシャだと使用人たちは口々に言った。
「エリスさん、どうですか?彼らに見覚えは?」
侍女長に聞かれたエリスは首を横に振った。
「お嬢様、モリーです。ナターシャお嬢様の侍女をしておりました。」
「……ごめんなさい。思い出せないわ。私は貴族だったの?」
「はい。隣国の伯爵家のご令嬢です。今は18歳におなりです。」
「そうなのね。家族は?」
「伯爵様ご夫妻と、あとお姉様がおられましたが2年前にお亡くなりに……」
「そう……」
再び扉がノックされ、今度は辺境伯夫人とカリンが入ってきた。
「こちらはお世話になっている辺境伯夫人です。」
使用人たちは一斉に頭を下げた。
「おかーさま。」
近寄ってきたカリンを、私と一緒に見つかった子だと話した。
すると、使用人からサリー様という声があがる。
「サリー様って?」
「ナターシャ様の亡くなられたお姉様です。こちらのお嬢様はサリー様によく似ておられて。
サリー様のお子様、カーラ様も2年前に流行り病でお亡くなりになったのですが……」
使用人たちは、カリンの顔を見て驚いている。
「詳しい話を聞きたいわ。」
辺境伯夫人は興味を示した。エリスの記憶が戻らなくても調査の参考にはなる。
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