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オリバーはエメット公爵家から王宮に戻ろうとしたところで学園から帰ってきたルナセアラに会った。


「お帰り、ルナセアラ。」

「ごきげんよう、オリバー殿下。お帰りでございますか?」

「ああ。……少し時間あるかな?」

「はい。何か?」


オリバーはルナセアラと2人で話がしてみたいと思い、庭に誘った。

庭園の四阿に向かいながら、ルナセアラの様子を伺う。
彼女も少しオリバーに慣れたのか、固くなってはいなかった。

四阿に着き、それぞれ座った。オリバーの侍従ももちろん近くにいる。
 

「パトリックとは順調かい?」

「はい。今は結婚式の準備とか、部屋の準備で毎週あちらにお邪魔しています。」


まぁ、結婚式まで半年ちょっとだから、のんびりデートっていうのはそろそろお預けになる頃か。 


「君はミルフィーナからパトリックを奪いたかった?」


オリバーはズバッと聞いてみた。彼女の反応が見たかったからだ。

ルナセアラはいきなり聞かれたことに驚いていたが、意外とすぐ冷静になった。
 

「奪いたい、とは違いますね。姉と代わりたいと思ったことはありました。」


奪いたい。代わりたい。同じようで少し違うか。


「君は密かにパトリックに好意を抱きつつも、自分という選択肢を考えなかったのか?」


パトリックを振り向かせようという気はなかったのか。
ルナセアラの言う『姉と代わりたい』は、中身という意味で、自分がミルフィーナになりたいと思ったということだろう。
   

「パトリック様の4度目の求婚までは、姉とパトリック様はいずれ結ばれると思っていましたから。」


4度目から5度目までの1年間、パトリックがミルフィーナを誘わなかったということは知っている。
そこで少し心境に変化があったか。パトリックはもちろん、ルナセアラにも。 
 

「君たち姉妹は仲が悪くはないが良くもないね?」

「そう……ですね。私は姉がなぜパトリック様の求婚を断るのか口にしないことをいいことに、姉の気持ちに寄り添って相談に乗るということをしませんでした。もし姉の口からパトリック様への気持ちを聞いたことがあれば、私は求婚を受けなかったかもしれません。」

 
そうか。ルナセアラは姉に心から寄り添ってしまえば、自分の恋よりも妹として姉の恋を応援し、援護する側にならなければいけないとわかっていたからか。

だから、本心を口にしない姉と何でも話し合える仲の良い姉妹になる道は選ばなかった。
自分の好きな人の話を嬉しそうにする姉を間近で見たくななかったからだろう。

そのうちひっそりと、胸に閉まって終えるはずの恋だったのだな。
 
   


 
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