上 下
25 / 33

25.

しおりを挟む
 
 
オリバーとミルフィーナの結婚は10か月後に決まった。

婚約期間は1年もない。

というのも、パトリックとルナセアラの結婚が1年2か月後。

姉として、次期公爵として、妹よりも先に結婚するべきである。 

と、まぁ、よくわからない昔の慣習がここでも生きていた。
もちろん、可能な限りである。

例えば、妹の結婚式が3か月後に迫っている中、姉が婚約したからと言って3か月以内に結婚することはない。
昔は、妹の結婚式を遅らせてまで姉を先にしていたこともあったとか。
そうなると、玉突きのようにあちこちで延期になり、その間に婚約破棄なども起こったりと後処理が大変になり、あまりうるさく言われなくなったということらしい。

今回はルナセアラがまだ学生であることが幸いし、ミルフィーナの結婚を先にすることにできたのだ。


 
「私の外見は君の好みではないようだが、君の外見は私の好みから外れてないよ。」


オリバーは婚約を交わしたミルフィーナとの交流でそう言ってみた。

彼女はオリバーがそのことを知っているとわかっていたのだろう。動揺することなく、苦笑して答えた。


「あの頃の自分が恥ずかしいですわ。幼い頃に見た絵本の王子様のような方が自分の結婚相手だと思い込んでいたのですもの。オリバー様は正真正銘の王子様でいらしたのに、失礼なことを申しました。」
 

そうだ。オリバーは王子だ。ミルフィーナの好みではない茶髪翠眼だが。
そしてパトリックはミルフィーナ好みの金髪碧眼ではあったが侯爵令息で王子ではない。

しかも、ミルフィーナとの結婚でオリバーは王子という肩書を失う。
つまり、王子でもなく金髪碧眼でもない。

ミルフィーナの結婚相手は、どちらも持っていない男になるのだ。 

彼女は公爵令嬢としての仮面でうまく隠しているが、この婚約に未だ戸惑いが見えた。
 

「何か聞きたいことがありそうだが?」

「いえ、何もありませんわ。」

「そうか?でもそれはそれで寂しいな。婚約者なのに興味はないということか?」

「あ……失礼しました。そういう意味ではないのです。」

「ははっ。冗談だよ。困らせてしまったかな?もっと気楽にしてくれていいよ。」

「気楽に。っそう……ですね。少しずつ、そうなれるように努力いたします。」

「いやいや、努力するものじゃないよ。まぁ、一緒にいることに慣れることでそうなっていくさ。」

「一緒に……」

「ああ。私も一緒に学ばせてもらうために結婚まで公爵家に通うつもりだからね。」
 

そう言うと、ミルフィーナは驚いていた。
彼女は婿になるオリバーが何もしないと思っているのだろうか。
もちろん、王太子である兄の補佐もするが、公爵家の婿になるのだから公爵家の仕事も手伝うつもりでいる。


「君が望むなら、私が公爵として表立っても構わないが?」


オリバーがそう言うと、ミルフィーナは公爵令嬢の仮面を忘れて素で驚いていた。
 
 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者の態度が悪いので婚約破棄を申し出たら、えらいことになりました

神村 月子
恋愛
 貴族令嬢アリスの婚約者は、毒舌家のラウル。  彼と会うたびに、冷たい言葉を投げつけられるし、自分よりも妹のソフィといるほうが楽しそうな様子を見て、アリスはとうとう心が折れてしまう。  「それならば、自分と妹が婚約者を変わればいいのよ」と思い付いたところから、えらいことになってしまうお話です。  登場人物たちの不可解な言動の裏に何があるのか、謎解き感覚でお付き合いください。   ※当作品は、「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています

前世を思い出したので、最愛の夫に会いに行きます!

お好み焼き
恋愛
ずっと辛かった。幼き頃から努力を重ね、ずっとお慕いしていたアーカイム様の婚約者になった後も、アーカイム様はわたくしの従姉妹のマーガレットしか見ていなかったから。だから精霊王様に頼んだ。アーカイム様をお慕いするわたくしを全て消して下さい、と。 ……。 …………。 「レオくぅーん!いま会いに行きます!」

やり直し令嬢は本当にやり直す

お好み焼き
恋愛
やり直しにも色々あるものです。婚約者に若い令嬢に乗り換えられ婚約解消されてしまったので、本来なら婚約する前に時を巻き戻すことが出来ればそれが一番よかったのですけれど、そんな事は神ではないわたくしには不可能です。けれどわたくしの場合は、寿命は変えられないけど見た目年齢は変えられる不老のエルフの血を引いていたお陰で、本当にやり直すことができました。一方わたくしから若いご令嬢に乗り換えた元婚約者は……。

かつて私のお母様に婚約破棄を突き付けた国王陛下が倅と婚約して後ろ盾になれと脅してきました

お好み焼き
恋愛
私のお母様は学生時代に婚約破棄されました。当時王太子だった現国王陛下にです。その国王陛下が「リザベリーナ嬢。余の倅と婚約して後ろ盾になれ。これは王命である」と私に圧をかけてきました。

【完結済み】婚約破棄したのはあなたでしょう

水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のマリア・クレイヤは第一王子のマティス・ジェレミーと婚約していた。 しかしある日マティスは「真実の愛に目覚めた」と一方的にマリアとの婚約を破棄した。 マティスの新しい婚約者は庶民の娘のアンリエットだった。 マティスは最初こそ上機嫌だったが、段々とアンリエットは顔こそ良いが、頭は悪くなんの取り柄もないことに気づいていく。 そしてアンリエットに辟易したマティスはマリアとの婚約を結び直そうとする。 しかしマリアは第二王子のロマン・ジェレミーと新しく婚約を結び直していた。 怒り狂ったマティスはマリアに罵詈雑言を投げかける。 そんなマティスに怒ったロマンは国王からの書状を叩きつける。 そこに書かれていた内容にマティスは顔を青ざめさせ……

婚約破棄から~2年後~からのおめでとう

夏千冬
恋愛
 第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。  それも王命により屋敷に軟禁状態。肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!  改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットをして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することを目標にする。

【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。 運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。 殿下、婚約破棄致しましょう。 第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。 応援して下さった皆様ありがとうございます。 リクエスト頂いたお話の更新はもうしばらくお待ち下さいませ。

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

処理中です...