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しおりを挟むハリールス侯爵令息パトリックは、エメット公爵令嬢ミルフィーナの誕生日パーティーに招かれていた。
ミルフィーナは18歳になる。
公爵令嬢でありながら、この歳まで婚約者がいないのは珍しいことだろう。
本人に何か問題があると思われるのが通常だが、彼女に関しては少し事情が違う。
彼女が自ら望んだはずの男、パトリックの求婚を、過去4回も断り続けてきたのだ。
しかし、その断り方が少し微妙だった。
『また来年、求婚してね?』
ミルフィーナの14歳の誕生日から17歳の誕生日まで、パトリックは求婚を4回断られ続けたが、さすがに18歳の今回は彼女も求婚を受け入れるだろうと誰もが思っている。
それを見届けようと、パトリックのいる場所からミルフィーナのところまで道ができた。
パトリックはゆっくりとミルフィーナに向かって歩いた。
左のポケットには彼女へのプレゼントが入っている。
それを確かめて、彼女の顔を見た。
その顔を見て、パトリックは決意した。
パトリックはミルフィーナの前を通り過ぎ、彼女の斜め後ろに立っていた彼女の妹、ルナセアラの前に跪いた。
そして右のポケットから指輪を出し、ルナセアラに求婚した。
「ルナセアラ嬢、私と結婚してください。」
周りはシーンとした後にざわつき、目の前にいるルナセアラの顔色は真っ青になった。
それでも真剣なパトリックを見て、彼女は震える手をパトリックの前に差し出した。
「お受けいたします。」
震える声でそう言ったルナセアラの手に指輪をはめ、パトリックは彼女を軽く抱きしめて言った。
「嬉しいよ。ありがとう。一緒に幸せになろう!」
「はい。よろしくお願いいたします。」
もう後には戻れないと2人は覚悟を決めた。
パトリックの心が選んだのはルナセアラ。
5度目の求婚はルナセアラによって受け入れられた。
訳がわからないまま結ばれた2人を前に、パラパラとした拍手はやがて大きくなった。
それが治まった頃にパトリックは言った。
「ミルフィーナ嬢、あなたのお陰でルナセアラ嬢に求婚を受け入れてもらえました。感謝いたします。」
「え、ええ?」
ミルフィーナは何が起こったか現実をまだ受け止められていない様子で、パトリックはそこにつけ込んで話を作っていった。
「あなたは内気なルナセアラ嬢と私が親しくなれるように気遣ってくれていたのですね。『妹に婚約者ができるかどうか不安だ』とあなたは以前おっしゃいました。
あなたと約束をしてもルナセアラ嬢が代わりに相手をしてくれていました。
私に彼女の心を掴めと勧めてくれていたのだと、ようやく気づくことができました。
ルナセアラ嬢に求婚を受け入れて貰えたのもあなたのお陰です。ありがとうございます。」
パトリックがそう言うと、周りは『そういうことだったのか』と納得しているようだった。
当の本人、ミルフィーナは一瞬、顔を引きつらせたが笑顔で言った。
「よかったわ。2人が両想いになれて。私も手を貸した甲斐があったわ。おほほほほ……」
ミルフィーナも、もう後には戻れなくなった。
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