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しおりを挟む王妃様は侍女に連れられて退席することになった。
長年の思いを夫に知られていたことや、嫌がらせに気づいていたことまで暴露されてしまったために、何をどう言葉にすればいいのかわからなくなっていたようだから。
国王陛下は、そのまま王太子殿下とアンジェリーナの婚約の白紙撤回、そしてアデルとアンジェリーナの婚約をその場で受理してくれた。
「3年もの間巻き込んでしまって申し訳なかった。
だがアンジェリーナが王太子妃教育の記憶を失くしたことで、思っていたよりもゴネなかったな。
予定よりも早く公表もできるし、重荷を下ろした気分だ。」
国王陛下にとって王妃様は重荷だったってことかしら。
確かに、妻がずっと別の男性を思っているのは気分がよいものではないわね。
特にこの3年間は、王妃様の心情を理解しつつも軟化することを期待していたのだと思うわ。
それなのにその思いすら無下にしたのだもの。
王妃としても妻としても母としても失格よね。
それに、私が記憶を失ったことで王太子妃教育の内容を忘れてしまったことは、当初の婚約白紙撤回の計画よりも明らかに王妃様は納得せざるを得ない状況になって、国王陛下からの暴露と共にショックが大きかったでしょうね。
それよりもお願いしておくことがある。
「国王陛下、お願いがあります。
スザンヌ様の罪を軽くできませんか?
私が大した怪我ではなかったということで言えることだとはわかっていますが、彼女も被害者です。
殺そうという意志があったとは思えませんし、彼女も自分がしたことに驚いて反省しているはずです。
何とか更生できる道をお願いできないでしょうか。」
あの時はまだ、アンジェリーナは王太子殿下の婚約者だったのだ。
準王族への殺害未遂となると、極刑もあり得る。
そんなことにはしたくなかった。
「そうだな。犯罪性は認められなくとも王妃も関わった。
もう学園にも戻れないし、貴族の籍も抜かれているしな。
心の病の治療として医療療護院に併設された修道院に向かわせよう。
病の治療が済み次第、5年間は修道院で暮らしながら療護院で無料奉仕として働いてもらう。
その後はそのまま療護院で働こうが他の仕事をして暮らそうが自由。これでどうだ?」
「ありがとうございます。」
おそらく、あり得ないほど軽い罪の扱いだと思う。
ただ、貴族令嬢として暮らしてきた女性にとっては、辛い思いをすることになる。
だけど罪を償った後は、平民として新たな幸せに向かって踏み出してほしいと思った。
国王陛下が退席されて、私たちも帰ろうということになり今度はお兄様ではなくアデルが私を抱き上げてくれた。
「ありがとう。」
「ようやくアンジェに堂々と触れられるよ。
それとアンジェ、どの時点で記憶を取り戻したんだ?」
アデルの言葉に、みんなの目が私に向いた。
「アンジェリーナ、記憶が戻ったのか?」
「ええ、お父様。アデル、どうしてわかったの?」
「アンジェが僕を見る目、かな?」
「ふふ。さすがね。……国王陛下が王妃様の昔の話をされていた時かな。
自分が好きな人の隣には違う女性がいて、2人の幸せそうな姿を悔しい思いで見ている。
それを想像したの。
そうしたら、ふと、学園でアデルとスザンヌ様を見ていた自分を思い出して、後は自然と。
嫌だわ。思い出したキッカケが嫉妬なのよ?」
不貞腐れたように言った私の言葉に、みんなが笑った。
「僕はその嫉妬が嬉しいよ。」
「ま、ひとまずこれで全部片がついたな。
王太子妃教育を思い出したことは、殿下の結婚が終わるまで黙っていろよ。」
「もちろん。でも、王太子妃になんてなるつもりはなかったから、大事なところは聞いていないわ。」
私も前の公爵令嬢も、王太子妃になる肝心な部分の教育は受けていない。
どんな内容かはわからないけれど、逃げられなくなったら困るから。
教育係も私が王太子妃になるつもりはないことを察して、王妃様には内緒にしてくれていた。
ちなみに伯爵令嬢に王太子妃教育をしたのは、国王陛下が王妃様に内緒で頼んだ者たちだ。
逃がさない目的で結婚前に教えられる慣習だったのかもしれないけれど、絶対結婚後の方がいいと思うわ。
国王陛下はすぐに王太子殿下の新たな婚約を公布すると言っていた。
それが済んだ、週明けくらいから学園に通えるくらい捻挫も治っているはず。
治っていなくても、アデルがいるわ。
あと数か月の学園生活は、ようやくアデルと一緒に過ごせる。
国王陛下に認められた婚約者なんだもの。
予定よりも早く婚約を白紙撤回できたおかげで、周りにもアデルとの仲の良さを見せつけられるわ!
そう。アンジェリーナは思っていた以上にアデルといるスザンヌを羨ましく見ていた。
アデルは私のものなんだから!
アンジェリーナの可愛い嫉妬による学園での行動は、アデルも大歓迎するほどの可愛い威嚇といちゃつきだった。
<終わり>
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