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王太子殿下とアンジェリーナの婚約が偽装みたいなものだったことはわかった。

殿下は私の卒業を待たず、すぐにでも婚約を解消するつもりでいるようだった。
それは私が階段から突き落とされたから。
幸いなことに、命に別状はなく怪我も大したことはなかった。

でも、それは結果論。

死んでいてもおかしくはなかったから。 
これ以上、私を婚約者のままにしておくと次がどうなるかはわからないから。

また頭を打てば記憶は戻るかしら?なんて、冗談だけど。


お母様の話だけでは、どうして私が狙われたのかはわからないわ。
考えられるとすれば、スザンヌ様がアデルに好意があるから、とか?
だけど、公には私は王太子殿下の婚約者だし、学園でもアデルと私は距離を取っていたと聞いたわ。 
なのにどうして?

アデルが私と婚約するつもりだと誰かから聞いた?

王妃様の関係者から?
でも、私に何かあると困るのは王妃様よね。
だっていくら王妃様が伯爵令嬢を嫌おうと、王太子殿下と結婚できるのは伯爵令嬢だけになってしまう。
今から2~3年かけて王太子妃教育を誰かに受けさせるなんて、王太子殿下の年齢からもあり得ない。
19歳での結婚の予定が来年は21歳になってしまうのだから。

だから、王妃様側がスザンヌ様に知らせる利点は何もないのよね。

ならまた別ルートで聞いたことになるわね。
だけど、それは極秘で知っていた僅かな人たちの誰かがスザンヌ様に話したことになるわ。
3年も経って、私と王太子殿下の婚約は偽物で、アデルと結婚するってスザンヌ様に話して得をする人なんている?
絶対にいないわ。

ということは、スザンヌ様がアデルに好意があるというのは間違っているのかもしれない。
私個人への恨みということも考えられるのだ。

記憶がないから、彼女に何をしたのかはわからないけれど。
けれど、アデルの近くにいたスザンヌ様と私は友人と言えるほどの付き合いはなかったのでしょう?
確かララがそう言っていたわ。

さっぱりわからないわ。お母様の言う通り、アデルに聞くしかないのね。

どうして前の私は日記を書いていなかったのかしら。
自分が何を考えて、どう思っていたか、知りたいわ。

だけど、家族やララの様子からして、前の私と今の私に大きな性格の違いはなさそう。
言動に驚かれるようなことがないもの。

そこは少し安心している。




夕方になり、アデルが見舞いに来た。

どうやら学園の帰りらしい。


「具合はどうだ?」

「少しずつ痛みがマシになっているわ。頭のコブは大分引いたし肩の痛みもね。」

「よかった。学園でも何人もにアンジェの状態を聞かれたよ。不思議だよな。
 あまりアンジェと接触しないようにしていたのに、僕が事情を知っていると思われている。
 スザンヌ嬢が僕のそばにいたし、アンジェを運んだのが僕だったからだな。」

「ねぇ、アデル。スザンヌ様と婚約するかもって噂があったのよね。
 でもお母様が言うには、私が王太子殿下との婚約を白紙にしたらあなたとの婚約を発表するって。
 あなたの気持ちがスザンヌ様に移っていたというわけではないのよね?」


お母様じゃないけれど、アデルがアンジェリーナを好きだということはわかるわ。 

それなのに、どうしてスザンヌ様と噂になったのかしら。


 



 
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