上 下
3 / 13

3.

しおりを挟む
 
 
侍女のララから聞いた話は、以前の私、アンジェリーナがララに言った内容もあるのだと思う。

だけど、ララは侍女で当人ではない。
少しうっかり者にも思えるし、前の自分が話していないこともありそうだし。
なので、すべてを鵜呑みにするわけにはいかない。

記憶が戻れば問題ないのだろうけれど、いつ戻るのかはわからない。

中途半端な情報では、よくわからないので誰かにちゃんと説明してほしかった。

だけど、私を突き落としたと思われるスザンヌ様の事情を聞けば、経緯がある程度わかるはず。 
今日は無理でも、近いうちに誰かが話してくれるはずだわ。
記憶を失っていても、それくらいはちゃんと聞いておきたい。
私の今後にも繋がりそうだし。


そう思っていると、部屋の外が騒がしくなっていた。


「見てきてくれる?」


ララにお願いして様子を伺っていると、戻ってきた。


「ルシアン様がアンジェリーナ様に会いたいと来られています。
 自分を見たら、思い出すかもしれないからと言っています。
 王太子殿下とアデル様も来られていますが、いかがなさいますか?」


ここまで来ていただいているのに、帰ってもらうのも申し訳ないわよね。
だけど、こんな姿のままで失礼じゃないのかな?
そうララに聞いた。


「アンジェリーナ様は素顔でも部屋着でもお綺麗ですので大丈夫です。
 ではお入りいただきますね。」


あ、鏡で顔を確認したかったわ。




ララが3人の男性を部屋に入れた。

私室で良かったのかしら。普通、応接室とかじゃない?
まぁ、そうなると移動が大変になるわね。
あちこち痛いし、捻挫してるし。

3人は、タイプの違う男性たちだけど、モテそうな人たちだなぁと思った。


「アンジェリーナ、わかるかい?お兄様だよ。」


私の手を取ってそう言ったということは、この人が兄のルシアンということ。
ということは、煌びやかな衣装の人が王太子殿下で、シンプルな服の人がアデル様かな。


「ごめんなさい。どなたのことも思い出せないようです。」


アンジェ……そう悲痛そうに言ったのはアデル様かな。
うん。王太子殿下よりもアデル様の方が私の好みな気がするわ。今の私にはね。


「そうか。残念だが、そのうち記憶も戻るかもしれない。
 戻らなくても、心配するな。ずっとここにいて構わないからな。」


そう言って、お兄様は抱きしめようとしたけれどララが止めた。


「っダメです。ルシアン様。
 アンジェリーナ様は、頭と肩を打たれているのです。」


アンジェリーナの頭と肩を引き寄せようとしたルシアンの腕が空中で止まった。
 

「そうだった。怪我人だよな。可愛い妹に痛みを与えるところだったよ。
 でも、可愛い顔に傷がつかなくてよかった。
 残る傷が見えるところについていたら見るたびに泣いてしまいそうだ。」


このルシアンという兄は、とても優しい兄みたい。
髪色も同じだし、目の色も同じだったりして。
あとで鏡を見て確かめよう。


「大丈夫です。捻挫以外は打撲なので、10日もすれば治るそうです。
 こちらの方たちが、王太子殿下とアデル様ですか?」

「そうだよ。一応、まだ婚約者のダリウス殿下と幼馴染のアデルだ。」


その『一応、まだ』というところを強調するのね。
ということは、お兄様は王太子殿下との結婚に反対してそうね。

アデル様が私の近くにかがんで言った。


「アンジェ、意識が戻って良かった。
 まだ調査中だけど、僕が原因かもしれない。ごめん。
 こうなった理由が全部わかったら、ちゃんと説明するから。
 記憶が戻ってなかったとしても知りたいだろう?」

「はい。アデル様、よろしくお願いします。」

「アンジェ、アデルだ。気楽に話して。」

「わかったわ。アデル。」


記憶がなくてもわかる。アデルはアンジェリーナのことが好きだってことが。
とても心配そうに、でも愛しそうに見つめてくれるから。

王太子殿下にはそれがない。


「いや、そもそもの原因は私にある。すまない。アンジェリーナ嬢。
 婚約は必ず白紙撤回するから。君たちを振り回してしまってすまなかった。」


いや、王太子殿下。さっぱり私には何のことかわからないから。



3人が部屋から出て行って、私はようやくララに手鏡を持ってきてもらった。 

 



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう、愛はいりませんから

さくたろう
恋愛
 ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。  王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

【完結】幼馴染と恋人は別だと言われました

迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」  大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。  毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。  幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。  そして、ある日突然、私は全てを奪われた。  幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?    サクッと終わる短編を目指しました。  内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m    

私のウィル

豆狸
恋愛
王都の侯爵邸へ戻ったらお父様に婚約解消をお願いしましょう、そう思いながら婚約指輪を外して、私は心の中で呟きました。 ──さようなら、私のウィル。

【短編】夫の国王は隣国に愛人を作って帰ってきません。散々遊んだあと、夫が城に帰ってきましたが・・・城門が開くとお思いですか、国王様?

五月ふう
恋愛
「愛人に会いに隣国に行かれるのですか?リリック様。」 朝方、こっそりと城を出ていこうとする国王リリックに王妃フィリナは声をかけた。 「違う。この国の為に新しい取引相手を探しに行くのさ。」 国王リリックの言葉が嘘だと、フィリナにははっきりと分かっていた。 ここ数年、リリックは国王としての仕事を放棄し、女遊びにばかり。彼が放り出した仕事をこなすのは、全て王妃フィリナだった。 「待ってください!!」 王妃の制止を聞くことなく、リリックは城を出ていく。 そして、3ヶ月間国王リリックは愛人の元から帰ってこなかった。 「国王様が、愛人と遊び歩いているのは本当ですか?!王妃様!」 「国王様は国の財源で女遊びをしているのですか?!王妃様!」 国民の不満を、王妃フィリナは一人で受け止めるしか無かったーー。 「どうしたらいいのーー?」

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

諦めた令嬢と悩んでばかりの元婚約者

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
愛しい恋人ができた僕は、婚約者アリシアに一方的な婚約破棄を申し出る。 どんな態度をとられても仕方がないと覚悟していた。 だが、アリシアの態度は僕の想像もしていなかったものだった。 短編。全6話。 ※女性たちの心情描写はありません。 彼女たちはどう考えてこういう行動をしたんだろう? と、考えていただくようなお話になっております。 ※本作は、私の頭のストレッチ作品第一弾のため感想欄は開けておりません。 (投稿中は。最終話投稿後に開けることを考えております) ※1/14 完結しました。 感想欄を開けさせていただきます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

愛されない花嫁はいなくなりました。

豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。 侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。 ……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。

処理中です...