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ふと目が覚めると、どこにいるのかわからなかった。

ベッドに寝転がっていることは、状況からはわかっている。
だけど、それがどこの誰のベッドで、ここはどこだろうと目と首を動かして辺りを見回してみた。


「痛っ!」


首を動かすと、頭に痛みを感じた。それに肩も痛かった。

怪我をしてる?

そう感じた。

いつ?どこで?

というか、私って………


「アンジェリーナ様、目が覚めましたか?あぁ、良かったです。
 医師と旦那様たちにもお伝えしますね。」


声をかけてきた女性は、部屋の外にいた誰かに伝えたようですぐに戻ってきた。


「アンジェリーナ様、具合はいかがでしょうか?お水を飲まれますか?」


水……欲しいわ。そう思って頷くと、すぐに用意をしてくれた。
起き上がろうとしたけれど、肩が痛くて難しかった。


「あぁ、お支えしますね。肩にはひどい打撲の跡がありますので。」


女性はピローを準備して、私の背中に腕を入れて上体を起こした後にササッとピローを置いて座れるようにしてくれた後、水の入ったコップを渡してくれた。

ひどく喉が渇いていたようで、ゴクゴクと飲んでしまった。


「ありがとう。それで……アンジェリーナというのは私の名前かしら?
 ここは、私の部屋なの?
 ごめんなさい、何も覚えていないみたいなの。」

「え?ご自身のことをお忘れに?私のことはどうですか?」

「わからないわ。失礼だけど、あなたは私の侍女なのかしら?」

「はい。ララと申します。アンジェリーナ様の専属侍女です。
 どなたか思い出せる方はおられますか?旦那様や奥様、つまりご両親やお兄様とか。」

「両親……いえ、ダメね。誰もわからないわ。会ってみたら思い出せるかしら。」

「そうかもしれません。
 アンジェリーナ様は、階段から落下された際に頭も打っておられます。コブが出来ています。
 それが原因かもしれません。」


ララが私の頭の右後ろ辺りを見ているので触ろうとすると肩に痛みが走った。
しばらく動かせないみたい。


「コブがあるのね。なんとなくその辺が痛いと思ったの。
 私、階段から落ちたのね。
 足も痛い気がしてきたのだけれど。」

「はい。幸い折れてはいないようですが、足首の捻挫とあちこちに打撲もございます。」


その時、扉がノックされて医師と使用人が入ってきた。


「お嬢様、目が覚められて安心しました。ご気分はいかがでしょうか。」

「あちこち痛みはありますが、それよりも自分のことも誰のこともわからないのです。」


驚いた医師にいろいろと質問された。

結果わかったことは、物の名前や一般常識的なことは覚えているが、家名や人名、顔はさっぱり覚えていないとわかった。
 
というか、自分の顔もわからない。鏡が見たい。

そう思っていると、新たに人がやってきた。服装からして使用人じゃない。
だから多分、両親なんだろうと思うけど。


「アンジェリーナ、よかった。目が覚めて。」

「丸一日も目覚めないから心配したわ。
 ルシアンにも知らせを出したから、アデル君や殿下にも伝わるわ。」


わからない名前が出てきた。ルシアン?アデル?殿下?誰とどういう関係なのかしら。

医師は、両親を見てもアンジェリーナが何の反応も示さなかったことで思い出せないと判断して言った。


「侯爵様、お嬢様は頭を打ったことにより記憶に障害が出ております。
 ご自分のことも、どなたのことも覚えておられないようです。」

「え?アンジェ?お母様のことも覚えていないの?」

「はい。申し訳ございません。お目にかかっても思い出せないようです。」


両親は私の言葉に呆然としていた。
 


とりあえず、鏡を見せてくれないかしら。


 




 
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