上 下
14 / 17

14.

しおりを挟む
 
 
彼との待ち合わせの場所に早く着いた。

明日の卒業式に下級生は出席しない。なので、彼に会う最後の日になるだろう。 

図書館以外で会うことのなかった私たちの、最初で最後のデート。
前に彼が話していた、夕日と星空が綺麗に見える丘に連れて行ってくれるらしい。

そこでお互いの気持ちを思い出にする。そういうことだろう。 


彼も、待ち合わせ時刻よりも少し早めに着いたようで、そのまま目的地まで歩いた。
 
彼が前。私は少し斜め後ろ。おそらく、少し前に歩いている人と後ろの人は護衛だろう。
無言のまま、少し小高い丘まで登った。

ちょうど夕日が沈み、夜空に星が見える前の幻想的な光景は見たことがないほど美しいものだった。
見とれている間に夜が進み、気がつけば星空になってきていた。


「綺麗だっただろう?」

「はい。こんなに美しい景色は初めて見ました。」

「君に、覚えていてほしかった。夕日を、星空を見るたびに、私のことを心の片隅に。
ズルい男だろう?君の側にいることはできないのに覚えていてほしいなんて。
ほんの一時だけ、君と幸せになる夢を見た、愚かな男のことを。
君は私の初恋だ、ローリエ。」 


名前で呼ばれ、前から聞きたかったことを聞いてみた。


「『ジェイ』って、偽名ですか?図書館でそう呼ばれていましたよね?」

「いや、ミドルネームだ。クレソンだと君にバレそうだったから。」

「そうでしたか。では今だけジェイと呼ばせていただきますね?私もあなたが初恋です、ジェイ。」


私たちは見つめ合って微笑むだけしかできなかった。手も繋げない、抱擁もできない関係だから。


「初恋の人は忘れません。絶対に。この先、誰かを好きになることがあっても。」

「私も忘れないよ。だけど前を向いて進まなければならない。進まなくてよくなるまで。だから、私に一つだけ希望をくれないか?」

「希望?」

「ああ。いつのことになるかはわからないが、目標がほしいんだ。」


私たちはその後、一つの約束をして、別れた。






ローリエは王都の学園から領地に近い学園へと2年生から編入した。
王都にいれば、彼の情報を嫌というほど耳にすることになると思ったから。

だが、どこにいても大きな話題は耳にすることになる。


クレソン王太子殿下とマドラス公爵令嬢が卒業半年後に予定通り結婚したこと。 
結婚から1年後に王太子妃の妊娠が発表されたこと。
産まれたのは王子だったこと。


辛く思う気持ちもあったが、国民として祝福した。

そして王子が産まれた同じ頃、ローリエは『ワケアリ』の男性と結婚した。 
伯爵家の長男だったディル。

しかし、夫はこれまでの『ワケアリ』とは少し違った。

表向きは、家の金を持ち出して平民女性に貢ぎ、見かねた弟が兄の婚約者を慰めて、跡継ぎの座も婚約者の令嬢も弟のものになり兄は放逐されたことになっている。

だが本当は、思い合っている弟と自分の婚約者を一緒にさせたいために自分が悪者になることを選んだということだ。

夫ディルは心優しい人だ。


「僕よりも弟の方が、彼女も領民も幸せにできると思っただけだよ。」


そう笑って言った。


「ここで10年過ごして、放浪の旅にでも出ようかと思ってるんだ。」


結婚当初はそう言っていた。

だが、結婚翌年に長男が、3年後に長女が産まれ、10年を過ぎてもローリエの夫のままだった。

 


 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

【完結】それぞれの贖罪

夢見 歩
恋愛
タグにネタバレがありますが、 作品への先入観を無くすために あらすじは書きません。 頭を空っぽにしてから 読んで頂けると嬉しいです。

【完結】お荷物王女は婚約解消を願う

miniko
恋愛
王家の瞳と呼ばれる色を持たずに生まれて来た王女アンジェリーナは、一部の貴族から『お荷物王女』と蔑まれる存在だった。 それがエスカレートするのを危惧した国王は、アンジェリーナの後ろ楯を強くする為、彼女の従兄弟でもある筆頭公爵家次男との婚約を整える。 アンジェリーナは八歳年上の優しい婚約者が大好きだった。 今は妹扱いでも、自分が大人になれば年の差も気にならなくなり、少しづつ愛情が育つ事もあるだろうと思っていた。 だが、彼女はある日聞いてしまう。 「お役御免になる迄は、しっかりアンジーを守る」と言う彼の宣言を。 ───そうか、彼は私を守る為に、一時的に婚約者になってくれただけなのね。 それなら出来るだけ早く、彼を解放してあげなくちゃ・・・・・・。 そして二人は盛大にすれ違って行くのだった。 ※設定ユルユルですが、笑って許してくださると嬉しいです。 ※感想欄、ネタバレ配慮しておりません。ご了承ください。

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

優柔不断な公爵子息の後悔

有川カナデ
恋愛
フレッグ国では、第一王女のアクセリナと第一王子のヴィルフェルムが次期国王となるべく日々切磋琢磨している。アクセリナににはエドヴァルドという婚約者がおり、互いに想い合う仲だった。「あなたに相応しい男になりたい」――彼の口癖である。アクセリナはそんな彼を信じ続けていたが、ある日聖女と彼がただならぬ仲であるとの噂を聞いてしまった。彼を信じ続けたいが、生まれる疑心は彼女の心を傷つける。そしてエドヴァルドから告げられた言葉に、疑心は確信に変わって……。 いつも通りのご都合主義ゆるんゆるん設定。やかましいフランクな喋り方の王子とかが出てきます。受け取り方によってはバッドエンドかもしれません。 後味悪かったら申し訳ないです。

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

大恋愛の後始末

mios
恋愛
シェイラの婚約者マートンの姉、ジュリエットは、恋多き女として有名だった。そして、恥知らずだった。悲願の末に射止めた大公子息ライアンとの婚姻式の当日に庭師と駆け落ちするぐらいには。 彼女は恋愛至上主義で、自由をこよなく愛していた。由緒正しき大公家にはそぐわないことは百も承知だったのに、周りはそのことを理解できていなかった。 マートンとシェイラの婚約は解消となった。大公家に莫大な慰謝料を支払わなければならず、爵位を返上しても支払えるかという程だったからだ。

処理中です...