上 下
6 / 17

6.

しおりを挟む
 
 
曾祖母レイチェルはそこまでひどいことをしただろうか。

確かに、婚約者のいる人と恋仲になることは褒められたことではない。
しかも、王太子殿下の婚約者は隣国の王女様で政略結婚だった。
王女は王太子殿下に一目惚れだったが、王太子殿下はそうではなかったのだろう。
むしろ、苦手だったのかもしれない。

苦手だからと言って、浮気をすることは不誠実だと思う。
だけど、王太子殿下は立場よりも恋を選びたかった。もちろん、その立場で許されることではなかったが。

ただの貴族で、相手が婚約解消に了承してくれるのであれば2人に未来はあったかもしれない。

王女が相手ではレイチェルも敵わない。
だけど、王太子殿下の側妃になることは可能だったのだ。

当時の国王陛下も、ひとまずレイチェルを愛人として王女と結婚し、王女に子供ができてからレイチェルを側妃にすることを勧めていたという。

王女との婚約解消が難しいとなれば、それが最善だった。
王太子殿下とレイチェルも一緒にいられるのであれば、と思っていた。

それをブチ壊したのが、王女だ。

嫁いでくる身でありながら、側妃を許さなかった。逃げることもできなくなった。
大国との繋がりを盾に、レイチェルだけが責められることになった。

それが、あの罰だ。

未だに守り続けなければいけないほど、隣国は以前ほど大国ではないのに。

王太子殿下と王女は結婚したのに。

王女が許さなかった側妃は、身勝手にも自分の子供には許したのに。 

王家はハーブス家への罰をきちんと果たそうとする。


彼を好きになってしまったことでローリエは自分の身の上が理不尽に思えてきた。
3年間、学園生活を楽しんだ後は『ワケアリ』と結婚して領地で子供を産み育てる。そう思ってきた。

だけど、手を伸ばせば彼を掴めるかもしれない。そんな欲望を抱いた後、後悔した。

婚約者がいるであろう彼を好きになってもどうしようもないし、自分が4代目から逃げられないこともわかっているから。 

私は頭の中で現実逃避を楽しんでいるのだろう。



貴族の結婚は、政略結婚が多い。
婚約者として親しくなれる場合もあるが、うまくいかない場合もある。

両親たちもそうだ。
レイチェル以外、押しつけられた『ワケアリ』と子供まで作っているのに、うまくいかなかった。 

自分が産んだ子供のことより、元婚約者への思いが強かったせいだろう。

父や祖父は、10年経てば自由にしてあげたいという思いもあり、遠慮があった。
母や祖母は、嫁いでも自分が必要とされていないのではないかという思いと、元婚約者のことが記された手紙によって精神的な脆さに追い打ちをかけられた。 


私は夫となる『ワケアリ』の人と関係を築き上げることができるだろうか。
 
恋を知ってしまったのは、やはり間違いだったかもしれない。

私は夫と彼を比較してしまうだろう。そんな結婚が上手くいくはずがない。

やはり、私は恋した彼を思いながら10年間を辛抱することになるのだろう。
 

彼との会話を、一つでも多く覚えていたい。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

三回目の人生も「君を愛することはない」と言われたので、今度は私も拒否します

冬野月子
恋愛
「君を愛することは、決してない」 結婚式を挙げたその夜、夫は私にそう告げた。 私には過去二回、別の人生を生きた記憶がある。 そうして毎回同じように言われてきた。 逃げた一回目、我慢した二回目。いずれも上手くいかなかった。 だから今回は。

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

届かなかったので記憶を失くしてみました(完)

みかん畑
恋愛
婚約者に大事にされていなかったので記憶喪失のフリをしたら、婚約者がヘタレて溺愛され始めた話です。 2/27 完結

あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️
恋愛
僕に向かって微笑みながら「さようなら」と告げた彼女は、そのままゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥ ***** 僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。 僕は彼女がずっと、僕を支えるために努力してくれていたのを知っていたのに‥

婚約破棄から~2年後~からのおめでとう

夏千冬
恋愛
 第一王子アルバートに婚約破棄をされてから二年経ったある日、自分には前世があったのだと思い出したマルフィルは、己のわがままボディに絶句する。  それも王命により屋敷に軟禁状態。肉塊のニート令嬢だなんて絶対にいかん!  改心を決めたマルフィルは、手始めにダイエットをして今年行われるアルバートの生誕祝賀パーティーに出席することを目標にする。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

幼馴染の公爵令嬢が、私の婚約者を狙っていたので、流れに身を任せてみる事にした。

完菜
恋愛
公爵令嬢のアンジェラは、自分の婚約者が大嫌いだった。アンジェラの婚約者は、エール王国の第二王子、アレックス・モーリア・エール。彼は、誰からも愛される美貌の持ち主。何度、アンジェラは、婚約を羨ましがられたかわからない。でもアンジェラ自身は、5歳の時に婚約してから一度も嬉しいなんて思った事はない。アンジェラの唯一の幼馴染、公爵令嬢エリーもアンジェラの婚約者を羨ましがったうちの一人。アンジェラが、何度この婚約が良いものではないと説明しても信じて貰えなかった。アンジェラ、エリー、アレックス、この三人が貴族学園に通い始めると同時に、物語は動き出す。

処理中です...