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6.
しおりを挟む曾祖母レイチェルはそこまでひどいことをしただろうか。
確かに、婚約者のいる人と恋仲になることは褒められたことではない。
しかも、王太子殿下の婚約者は隣国の王女様で政略結婚だった。
王女は王太子殿下に一目惚れだったが、王太子殿下はそうではなかったのだろう。
むしろ、苦手だったのかもしれない。
苦手だからと言って、浮気をすることは不誠実だと思う。
だけど、王太子殿下は立場よりも恋を選びたかった。もちろん、その立場で許されることではなかったが。
ただの貴族で、相手が婚約解消に了承してくれるのであれば2人に未来はあったかもしれない。
王女が相手ではレイチェルも敵わない。
だけど、王太子殿下の側妃になることは可能だったのだ。
当時の国王陛下も、ひとまずレイチェルを愛人として王女と結婚し、王女に子供ができてからレイチェルを側妃にすることを勧めていたという。
王女との婚約解消が難しいとなれば、それが最善だった。
王太子殿下とレイチェルも一緒にいられるのであれば、と思っていた。
それをブチ壊したのが、王女だ。
嫁いでくる身でありながら、側妃を許さなかった。逃げることもできなくなった。
大国との繋がりを盾に、レイチェルだけが責められることになった。
それが、あの罰だ。
未だに守り続けなければいけないほど、隣国は以前ほど大国ではないのに。
王太子殿下と王女は結婚したのに。
王女が許さなかった側妃は、身勝手にも自分の子供には許したのに。
王家はハーブス家への罰をきちんと果たそうとする。
彼を好きになってしまったことでローリエは自分の身の上が理不尽に思えてきた。
3年間、学園生活を楽しんだ後は『ワケアリ』と結婚して領地で子供を産み育てる。そう思ってきた。
だけど、手を伸ばせば彼を掴めるかもしれない。そんな欲望を抱いた後、後悔した。
婚約者がいるであろう彼を好きになってもどうしようもないし、自分が4代目から逃げられないこともわかっているから。
私は頭の中で現実逃避を楽しんでいるのだろう。
貴族の結婚は、政略結婚が多い。
婚約者として親しくなれる場合もあるが、うまくいかない場合もある。
両親たちもそうだ。
レイチェル以外、押しつけられた『ワケアリ』と子供まで作っているのに、うまくいかなかった。
自分が産んだ子供のことより、元婚約者への思いが強かったせいだろう。
父や祖父は、10年経てば自由にしてあげたいという思いもあり、遠慮があった。
母や祖母は、嫁いでも自分が必要とされていないのではないかという思いと、元婚約者のことが記された手紙によって精神的な脆さに追い打ちをかけられた。
私は夫となる『ワケアリ』の人と関係を築き上げることができるだろうか。
恋を知ってしまったのは、やはり間違いだったかもしれない。
私は夫と彼を比較してしまうだろう。そんな結婚が上手くいくはずがない。
やはり、私は恋した彼を思いながら10年間を辛抱することになるのだろう。
彼との会話を、一つでも多く覚えていたい。
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