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図書館で会う彼とは雑談をすることも増えた。
一応図書館なので小声になるが、なぜか他の人が本を取りに来ることも通りかかることもないから、あまり人目が気にならないようになっていった。

先生が出す試験問題の傾向やオススメの小説、他国の言葉で会話をしたりもした。
今まで食べた一番美味しかった物や、どうしても苦手な物。
王都の穴場や景色が綺麗なところの話も聞いた。夕日と星空がオススメらしい。

彼は自分のことも話さないが、ローリエのことも何も聞かなかった。 

名乗り合わないその関係が心地よかった。


ローリエは卒業まであと2年と少しあるが、彼は今年卒業する。
ひょっとすると、彼にとっても気晴らしなのかもしれない。

卒業後は何をする人なのかも知らない。
跡継ぎであれば、自分の領地や事業について学ぶだろう。
次男・三男とかであれば、騎士や文官、管理人などになるかもしれない。
婿入りして相手の家のことを学ぶのかもしれない。

彼にとって、学生である今は息抜きなのかもしれない。


今まで、彼と2人の友人以外の人がここに来たことはない。
婚約者が学園内にいたとしても、昼休みは別行動を取っているのだろう。

3人が3人共、婚約者がいないとは思えないから。

彼らは子爵・男爵令息ではない気がしていた。

だけど、聞かない。知ってしまえば、この時間は終わるから。

ローリエが何も聞かないからこそ、許されている気がした。
 


「今日ね、友人が王太子殿下とすれ違ったそうなのです。同じ学年にいらっしゃるのですよね?」

「……ああ。学年が違うと1年生ではあまり見かけないのかな?」

「そうですね。私はお見掛けしたことがありません。遠目に、こう、人だかりの中にいつもいる感じで。」

「人だかり……まぁ、一人きりで歩いていることはないだろうね。でも人だかりは殿下だけではないよ。」

「どういうことですか?」

「どの学年にも人目を引いたり、男女共に人気のある者はいるからね。取り巻きみたいな友人に囲まれていると、それも人だかりになるから。」

「え……じゃあ、人違いしてしまうかもしれませんね。」


そう言うと、彼は笑っていた。

ローリエは王太子殿下の顔を知らない。
学園に入るまで王都に来たことはなかったから、王族を見たことがない。
ハーブス男爵家は王都で社交できないため、王族が出席する行事になど呼ばれることはないから。


だから、ローリエは知らなかった。
その上、王太子殿下の髪色、瞳の色、外見的特徴を知ろうともしなかった。

これは貴族としては失敬だろう。有り得ないと言われても当然かもしれない。
他の知識は本を読んで学ぼうとするのに、今の王族のことに関しては何も知るつもりはなかった。

彼らはローリエの先祖レイチェルにひどいことをしたから。
どうしてレイチェルだけが、ハーブス家だけが罰を受けているのだろうか。

当事者の王女はもう亡くなったけれど、王家はローリエも『ワケアリ』と結婚させるだろう。


王家は知っているのだろうか?

レイチェルが産んだ子供は王太子殿下の子供だった。

つまり、我がハーブス男爵家は王族の血が流れており、王家とは遠縁になるということを。
 
祖父たちは腹違いの兄弟で、現国王陛下とローリエの父は従兄弟になるということを。

王族と男爵家。その関係はあまりにも遠い。
 

 

 
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