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しおりを挟むローリエ・ハーブスは今年も同じ日に同じ丘にやってきた。
ここに来るのは4回目。今日と昨年、一昨年、そして27年前。
待っていても彼は現れないということはわかっている。……彼は亡くなったのだから。
それでもローリエは自分が元気でいるうちは、この日はここに来るだろう。
彼を偲んで、思い出に浸るために。
ローリエが彼と初めて会った、というか声をかけられたのは王都の学園に入学して3か月後のことだった。
ハーブス男爵領は王都から遠い。領地に近い学園もあったが、ローリエは王都を選んだ。
学園にある図書館の蔵書量が王立図書館と同様だと聞いたからである。
ちなみに王立図書館も王都にあるので、近い場所に同じ図書館がある意味が不明だと思っている。
そんな図書館で昼休みをローリエは過ごしていた。
最初は友人となった令嬢たちと一緒に過ごしていたけれど、彼女たちは図書館よりもおしゃべりの方が好きなのでいつしか昼食後は別行動となっていた。
ローリエは図書館の中で自分のお気に入りの場所を見つけて、そこで本を読んでいた。
近くに誰が来ようと、誰が通りかかろうと、本に熱中しているので周りは見ない。
ローリエに用があれば声をかけてくれるだろうと思っていた。
そして入学から3か月が過ぎた頃、試験の課題の一つにローリエは取り組んでいた。
「その時代、新たな時代の本で年号や政策に修正が入っているよ。」
「え……?」
さすがにローリエも書き出した手元に自分の指ではないものが入り込めば、自分にかけられた声だと気づいた。
指摘してきた男性と、その後ろに2人の男性がいた。
「これ、違うのですか?」
「ああ。こっちも読んでみて。それから纏めた方がいいと思う。」
「そうなのですね。ありがとうございます。」
彼はわざわざその本を取ってきてくれていた。
ということは、ローリエが何をしていたかがわかっていたのだろう。
確かに、何か年号の順序がおかしい気がしていたところだったのだ。
「課題の内容をご存知ということは、先輩でしょうか?」
この課題は毎年この時期に1年生に出される5つの中の1つらしい。どれを選ぶかは本人の自由。
提出した課題は戻ってこない。後輩たちが丸写しするという短慮な行動に出るからだという。
それでも、自力でやらない者もいるらしい。気づかれると採点は厳しくなる。
「……そうだね。君の2つ上になる。この課題を選ぶ者は少ない。君はどうしてこれを?」
「私が一番詳しく知らない時代ですので、いい機会だと思いまして。」
「そっか。頑張って。」
「ありがとうございます。」
一緒にいた2人と共にローリエのいる場所から少し離れたところに彼は座った。
それぞれ思い思いの本を読み始めていた。
ローリエが課題を進めやすいように助けてくれた優しい先輩。
それが第一印象だった。
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