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しおりを挟むルーチェは2年半ぶりに実家の伯爵家に戻って来た。
夫が事故で亡くなり、子供もいないルーチェは嫁ぎ先には必要なくなったから。
両親も兄夫婦も甥も姪も、出戻りのルーチェに優しくしてくれる。
しかし、当然ながら以前とは違うことも感じ、どことなく肩身の狭い思いをしていた。
再婚か、家庭教師か、修道院か。
いずれ、どれかを選ぶ必要がある。
領地管理を手伝えるわけでもなく、手に職があるわけでもない未亡人の行く末はそんなところだった。
ルーチェが甥姪と遊びながら将来を考えていたある日、ルーチェに面会をしたいという人が訪れた。
両親や兄夫婦もいない中、自分に会いに来た来客を不思議に思ったけれど、王宮からだということで会う選択しかなかった。
「ルーチェ・マロイエ様でしょうか?」
「はい。そうですが。私にご用ですか?」
「ええ。短期間ですが、王宮で働く気はございませんか?数日間で、破格の金額をお支払いします。」
胡散臭くて仕方がない。
「……犯罪などに加担する気はありませんが?」
「とんでもございません。ご了承いただけるまでは詳しい内容はお話できませんが、合法的なものです。
既婚者であったあなたに頼める仕事なのです。」
既婚者だったから頼める仕事って?未婚の令嬢ではダメってことよね?
なんだかよくわからないけど、王宮が絡む仕事なのだから怪しいわけではないのね?
「それは短期間なのですね?
例えば、その後に王宮か王城かで私にでも働けるお仕事をいただくことは可能でしょうか?」
「あぁ、なるほど。ご自身の今後の生活をお考えということですね。
……そうですね。まだお若いですし、侍女教育を受けていただくのはどうでしょうか。
通いではなく宿舎をご希望の場合は一人部屋ですが、侍女はつけられません。
身の回りのことはご自身になりますが、食事と洗濯については担当がおります。」
侍女か。嫁ぎ先でもほとんど自分でしていたし、教育を受ければ出来るようになるわよね?
「わかりました。お受けします。侍女の方も宿舎でお願いします。」
「ありがとうございます。それでは詳しい内容は王宮に来られた時にお話しします。
特にご準備いただくものもありませんし、侍女は制服もありますので。
自分で着られる普段着くらいでよろしいかと思います。
1週間後、受付でビリーに面会だと言えば案内するよう伝えておきます。」
「ビリー様ですね。わかりました。よろしくお願いします。」
胡散臭い仕事内容はまだ教えてもらってはいないけど、それは数日間。
その後は自分で働いて過ごせる居場所が見つかったことに安心していたので気にしないことにした。
その夜、両親と兄夫婦に来週から王宮で働くと伝えた。
急な話にみんな驚き、何かの間違いではないのかと詳細を聞かれた。
数日間、結婚経験者が必要なことを話すと、父と兄は微妙な顔をした。
しかし、侍女として宿舎に住める話をすると正式なものであると理解できたのか微妙な顔はなくなった。
「ルーチェ、そんなに急いで働かなくてもいいんだぞ?」
「ですが、いい機会だと思いましたので。
このまま何もしないよりも働くことができる場所に行きたいのです。」
「わかった。好きにしなさい。無理だと思えば帰って来ればいい。」
「ありがとうございます。」
両親も兄夫婦も、2年半もの間妊娠をしなかったルーチェが普通の再婚を望まれることはないとわかっている。
再婚を望まれることがあるとするならば、跡継ぎが既にいる歳の離れた男に若い体目当てで望まれるだろうということも。
そして、相手が亡くなった時に放り出されるのであれば、確かに今から自立して働いた方が幸せなのかもしれない。
そう思っていた。
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