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しおりを挟むディクソンがローディアを抱けないと義父から教えてもらった翌日の夜、ディクソンが声をかけてきた。
「ローディア、一緒に寝てくれるかな?ただ、君を抱きしめて眠りたいんだ。」
「ええ。もちろん。」
ディクソンと眠るのは久しぶりだった。彼が夫婦の寝室に来なかったからだ。
てっきり、ディクソンは初恋探しで忙しくしているのかと思っていた。
ひょっとするとローディアが知らないだけで、夜中に逢っているのかもしれないとも思っていた。
しかし、そうではなかった。
ローディアを抱きたくても反応しない。
それを自分の口から言うと、ますます精神的に追い詰められそうになるから寝室に来られなかったのだ。
その辺のデリケートなことは、男にしかわからないのだろう。
彼に抱きしめられながら、ローディアは言った。
「ねぇ、ディクソン。私が今までも、これからも、こうして一緒に眠って朝まで過ごすのは夫であるあなただけよ。」
基本、浮気相手とは一晩過ごすことはない。事が済めば誰もが帰宅するのだ。
「そっか。これは僕だけの特権なんだな。」
ディクソンが嬉しそうに言った。
「ふふ。そうよ。私の特権でもあるの。私の夫はあなたなんだから。」
ディクソンが今後、何人の女性と関係を持とうと、彼の帰る場所はローディアのところだ。
やがて、妻も夫も性欲に囚われず浮気をしない日々が来る。
そうなった時も隣で眠るのは夫であり妻なのだ。
ローディアが最後まで一緒にいる男はディクソンだけなのだとわかってほしかった。
ディクソンが政略結婚は強制的な恋だと言った時に、ローディアの恋心まで否定された気がして愛情は冷めた気がしたが、それでもやはりローディアにとってディクソンは初恋の人なのだ。
浮気をして他の男に抱かれようと、体は気持ちよくて満足しても、心まで渡すことはない。
心はやはり、夫であるディクソンと2人の子供たちの元にあるのだから。
「ローディア、僕は初恋を見つけたよ。今も、昔も、僕が恋しているのは君だった。」
「ふふ。強制的ではなかったの?」
「鈍感な男の愚かな勘違いだった。僕はとても幸運だった。初恋の人が愛する妻なのだから。」
そう言って、ローディアの額にキスをした。
鈍感で可愛い夫。
彼一筋ではなくなってしまったけれど、浮気したことに後悔もない。
こうしてこの国の夫婦は絆を深めるのかもしれない。
他国とは違う夫婦の有り方。
結婚時に貴族の女性は処女性が求められる現状、近隣国の女性は我が国を羨ましく思っていると聞くわ。
実は性に貪欲なのは女性の方だとも言われている。
まぁ、長い人生、夫だけしか知らないのが当たり前だったのに、浮気できるこの国の方が離婚率が低いのですものね。
愛し愛される喜びを知らない可哀想な国だと言われることもある。
だけど、この国でも他国でも、お互いの体しか知らない夫婦の数ってあまり変わらないと思うわ。
特に男の場合は結婚前に経験していることが多いから。婚約者がいてもね。
それでも本当に、裏切っていないと思える?
練習だなんて、ただの言い訳。
立派な浮気なのに目を逸らしてるだけよ。
深く愛してくれているから。
相手をそう信じるのは自分の勝手だけど、信じていいのは自分の心だけだわ。
体を繋げる相手に愛情があれば、より一層幸福感を感じるだけ。
でも、愛情がなくても、快感は得られるのよ。
だから、愛妻家でも他国の男は妻以外の女性と浮気するの。
その点、この国は性に正直でいいと思うわ。
特に女性にとって、ね。
まさか、自分もこの国の考えに染まってしまうなんて驚きだわ。
ローディアはそう思い、苦笑した。
<終わり>
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