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しおりを挟む≪婚約式2日前≫
昨日の続きを書き始めようとペンを取ったが、今日は一番辛く悲しい部分を書かなければならない。
手が震えたが、一気に書き進めることにする。…リリーベルの遣いの部分から最後まで…
「遣いの者がお詫びの品って…その人は本当にリリーの侍女なの?夢でリリーの側にはいないわ。
でも王子は信じたのよね…本当に侍女?…いいえ、多分、誰でも気にもしなかったのよ。
リリーがどうして令嬢が好きなお菓子を知ってるのよ。接点がないのに。
嫌がらせもいつするのよ。王子と令嬢は一緒にいるのに。」
…この毒入りお菓子と紅茶をテーブルに置いたのが令嬢。
令嬢・王子・側近候補4人の計6人がいた。
令嬢 王子 候補①
(候補→側近候補のこと)
候補② 候補③ 候補④
席に座った直後、令嬢が隣に座っている王子に話しかけ、持ち上げかけた紅茶のカップはそのまま。
二人の前に座った候補②と候補③も会話に加わる。
候補①と候補④は、おそらく話に耳を傾けながらもお菓子と紅茶に手を出した。…直後、倒れた。
倒れて苦しみながら息を引き取った二人の状況から、毒入りだとわかる。
調査の結果でも、全員分に毒が入っていたことがわかっている。
「この令嬢、せっかくお茶を用意したのに座った直後、話しかけるところが怪しいわ。
普通、味わわない?紅茶が冷めちゃうじゃない。」
別の紙に思ったことを書いていく。
「はぁー。客観的に見れてないかしら?主観が入ってる?でも夢に見たそのまま書いてるわよね?
現実に起こらない出来事になるけれど、令嬢が要注意人物の可能性が高いことは収穫だわ。」
その後の流れはほぼ勢いだ。牢に入れられたリリーベルの言うことなど誰も信じない。
亡くなった二人の親が侯爵と伯爵であり、処刑しろと怒鳴り込む。
調査して証拠を探すはずが、王子に対する殺人未遂だから証拠など要らないと暴論。
国王夫妻とリリーベルの両親が不在の中、無理矢理のように処刑が実行される…。
…学園に入学してからわずか半年ほどしか経っていなかった…
辛かったが、書き終えた。大丈夫だ。次からは夢と変わった出来事を書き記すことになるのだから。
そこには、笑顔がたくさん見えるような出来事で溢れるはず!
…それにしても、この令嬢は実は男爵家の庶子だ。貴族のマナーがまるで出来ていなかった。
そんな令嬢に心惹かれた王子はやっぱり王族として不安だ。
ひょっとして、王族・高位貴族に平民・庶子との常識や恋愛観の違いを教え込む必要があるのでは?
貴族令嬢のマナーばかり見ていると、学園で仕草が違う女性は目に付く。笑顔や距離感など…
それは新鮮で好印象に見えるかもしれないが、低位貴族ならともかく、王族・高位貴族の伴侶としては
受け入れられることは少ないだろう。結局は貴族の振る舞いを求められ、新鮮に見えた部分が消える。
ならば、初めから貴族令嬢でよかったのではないか?となる。
家の方針や兄弟の有無にもよるが、身分違いによる恋愛の先には、自分が平民になる覚悟が必要になる
かもしれないと教えておくべきでは?
貴族と平民との恋愛を否定はしないが、自分たちの思いを優先することにより生じる損失や弊害も
あるのだ。
今更こんなことを言われなくても、『常識でわかっているだろう?』と、どの貴族も鼻で笑うだろうか。
しかし、夢での王子と側近候補を見てしまっては、どうしても不安が拭えないため、やっぱり別の紙に
思ったことを書き出すことにした。…王太子夫妻に判断は任せよう。
夜、ジークが私の書いた夢の話を最後まで読み終えた。ついでに、別の紙に書いた私の主観まで…
「つらい出来事を最後まで頑張って書いたな。」
抱きしめながら、優しく髪を撫でられる。
「でも、後で読んだ君の主観の方、これは非常に大事だと思う。
怪しい令嬢と貴族の教育は、学園での出来事を変えていく上で重要なポイントだよ。
そういえば私たちの学年にも、平民の女性が婚約者のいる令息によく声を掛けて、問題になったことが
あったね。」
「…平民で入学したのに男爵令嬢だと言っていた女性のことかしら?
確か、男爵の庶子なのだけど引き取って貰えず、学園で貴族令息を捕まえれば男爵令嬢と認めて貰えて
男爵家から嫁がせてやるって言われたらしくて、いろんな令息と仲良くしていたわね。」
「婚約者と喧嘩して落ち込んでいた子爵令息が、その女性に『気晴らしに行こう』って無理矢理連れ出されて
気が付けば街の連れ込み宿みたいなところで目が覚めたって事件だな。
結果的に、薬で眠ってただけだったけど女性が責任をとれって迫って、学園でも話題になった。」
「子爵令息と婚約者の子爵令嬢の親が調査して、薬を飲ませた状況や宿に運んだ人物、あと一番助かった
のが、本当に宿で寝てただけってわかったことで責任とらなく済んだのよね。
大事にして恥をさらさないように穏便に済ませたのよね。無事、婚約者と結婚したし。」
「女性の方は、結局学園をやめたんだっけ?やめさせられたんだっけ?
どっちにしろ、もう貴族には相手にされなかっただろうから、自業自得だけど。
…あれ?もしかしたら、その女性がルナリーゼ様の夢で俺が心惹かれた女性って言わないよな…」
……めちゃくちゃ焦って早口になってる。
「…そんな気がしてきたわ。ルナに聞いてみましょう。
というか、今までの夢の伝記、私も読ませて貰えないかしら…
なんだか傾向が見えてきそうじゃない?対策が取りやすくなりそう!」
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