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≪婚約式4日前≫
 
 
次の朝、ジークとマリエルが登城すると、王太子の応接室に案内された。

すぐに、王太子夫妻が姿を見せ、挨拶はいらないとソファに座った。
お茶を入れた侍女が下がると、


「4人だけだから気楽に話してくれ。」


と言った。王太子とジークは同じ年、一つ下の王太子妃とマリエルも同じ年だったので、昔から
交流があり、仲が良かった。


「昨日ジークから聞いた子供たちの婚約をなかったことにする話だけど、結論から言うと無理だ。」


「……理由を聞かせてください。そのために呼び出したのですよね?」


「そうだ。今からする話は、おそらく聞いたことがないだろう。信じられないだろうが聞いてほしい。」



  *   *   *


「王家にはいろんな書物がある。
 その中に、個人の経験した伝記物もある。…その人物もしくは周囲の人物が見た夢の出来事の伝記だ。

 夢の出来事をそのまま書いただけのものもあれば、夢の出来事を変えようとした部分とその後の変化。
 それに、夢の出来事が起きないように始まりを変えた結果、起きた変化。
 いろんなパターンがあったよ。

 基本的な出来事は、どの夢もあまり変わらないんだ。
 
 ある男と女が婚約する。
 学園入学前の時点で仲が良い場合と、すでに仲が破綻している場合のどちらもあった。
 入学後にどちらかが婚約者以外の異性に心惹かれる。
 その異性が、婚約者から嫌がらせをされていると信じ込む。実際、有罪・無罪のどちらもあるが、
 夢の最後は、処刑・国外追放・廃籍などの処罰で終わる。

 夢はそこで終わる。どの伝記もそうだ。

 夫人が見た夢にそっくりだろ?」


「…そうですね。びっくりしました。
 ですが、なら何故、婚約はしなければならないのですか?その理由もあるのですよね?」


「ああ。
 出来事を変えようとした場合の変化と、始まりを変えた場合の変化に理由がある。

 まず、始まりである婚約をしてからの場合、大体が良い変化になる。起こる出来事がわかってるからね。
 そこを気を付けることで学園で異性に心惹かれることなく結婚したパターンもある。
 逆に、学園入学前に婚約解消したパターンもある。入学後、夢で心惹かれた異性と仲良くなる場合と
 ならない場合もあるけどね。

 次に、始まりを変える、婚約しない場合だが、これに関しては悲惨な結果が書かれていた。
 婚約予定だった男女がどちらも亡くなっている。家族も一緒に事故にあった事例もある。
 
 なので、婚約は絶対しなければならない。変えてはいけないんだ。
 
 そしてもう一つ変えてはいけないのが、入学する異性の存在。
 この人物が誰かわかっていても、入学前に排除は出来ない。
 入学しなかった場合でも悲惨な結果となる。

 つまり望ましいのは、婚約後のアダムとリリーちゃんが仲良くなるようにサポートする。
 仲が良いまま入学し、令嬢をうまくかわして卒業し結婚すること。

 でも婚約後、どうしても二人がうまくいきそうにない場合は入学前に婚約は解消。

 これでどうかな?」


「…それしか方法がなさそうですね。
 二人がこの話を理解できる頃に説明して、対策をとるのも良いのでは?」


「そのことだが、おそらく本人たちに説明しても無理だ。
 伝記にはあまり事例が書かれていなかったので不確かではあるが、話を聞いた本人は直後に
 高熱を出し3日ほど寝込んだ後、聞いた話は忘れている。
 再度、話そうとすると真っ青な顔で倒れてしまい、話せない。となるみたいだ。
 
 夢の内容が話せそうにないと気付いてサポートにまわったのが11歳のルナで、助言を受け入れて
 努力したのが11歳のマリーちゃんらしいよ。」


「えぇ?どういうこと?11歳?」


「そうよ、マリー。私も夢を見たの。…あなたとジーク様のね。」


「っへぁ?」…驚きすぎて淑女らしからぬ声が出た。


「ふふ。びっくりするわよね。ジーク様の前だけど、夢の話を聞く?」


「え~と…まぁいいわ。お願いします。」


「私が夢を見たのは10歳のとき。レオ様の婚約者と側近探しのお茶会がある5日前だったわ。
 よくわからない怖い夢を見て泣いてしまったけど、すぐ忘れると思ってたの。
 だけど、何日経っても忘れられなかったわ。

 お茶会の当日、王城の庭園でマリーを見たとき、『この子が夢の人だ』って気付いたの。
 気になって、チラチラあなたを見てたわ。すると、あなたの視線の先に男の子がいて、
 それがジーク様だった。夢の人を二人も見つけて、しかもどちらも好意的に視線を交わして
 いたのを見て、夢と違うのかな?って思ってたの。

 そしてレオ様を見ないでマリーの観察ばかりしていた私が何故かレオ様に気に入られていて、
 婚約者になった後、友人とその婚約者を紹介したいと呼ばれたのがジーク様とマリーだったわ。

 それから何度か四人で会ったりマリーの話を聞いてるうちに、夢の状況に近づいている気がして
 不安になってあなたに夢の内容を話したの。でもその後、高熱を出して覚えていなかった。
 
 婚約して一年たった頃のマリーは夢と似た感じで、ジーク様の顔を見れなくなっていたわ。
 夢ではね、その状況がどんどん悪化していって、曖昧な返事や態度になって、会う回数も減って
 しまうし、キツイ言葉を言って逃げるって感じになっていくの。
 このままでは、学園でジーク様に心惹かれる人が出来て夢の通りになってしまうと思ったの。

 何か自分に出来ることはないか、マリーから避けてる理由を聞き出そうとしたの。

 『ジーク様が嫌いになったの?』って直球で聞いたら、『そんなことあるわけないじゃない!』
 ってびっくりしてたわよね。
 何故、私がそんなことを聞くのか不思議がってたから、『マリーの態度はそう見えるわ』って
 言ったら、青ざめて泣き出したわね。

 ジーク様、あの頃のマリーはあなたが好きすぎて真っ赤になる顔を見せるのが恥ずかしかった
 そうなのです。その態度や言葉にジーク様も困っていらしたわね。

 なので私はマリーに、『ジーク様の立場になって自分の言動を考えてみて。』と言ったの。
 …避けてる・嫌われてるって態度よね。

 それから、ジーク様に今までの態度を素直に謝ること・好きな気持ちをまっすぐに伝えることを 
 勧めたの。真っ赤な顔を見せても嫌われることは絶対にないって背中を押したわね。」


「……そうだったわ。恥ずかしい過去……
 そのままジークのところに行って……謝って……好きって言って……嫌わないでって号泣した。」


「ははっ。あれからマリーは自分の気持ちを隠さず伝えてくれるようになったからね。
 とても素直で可愛いマリーがそばにいてくれるようになった。
 ルナリーゼ様のお陰だったんですね。ありがとうございました。」


「ルナのサポートのお陰で今の幸せがあるのね。本当にありがとう。」


「というわけで、夢と違った幸せの見本がここにある。子供たちの幸せのため、協力してくれ。」 
 





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