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しおりを挟む夜会の後、どうやって庭園の奥に入る方法を知ったのかを、騒動の大元となったザッカリーとレイニーから侯爵は聞き出していた。
「ほぉ。夜会を開催する屋敷ごとに担当がいるのか。担当に合言葉を言えば通してもらえるんだな。
それが各家の警備の中にいるということか。
夜会ごとに2組か3組。1組1~2時間ほどを目安にしているんだな。
金は前もって取りまとめの男に渡しているからトラブルにならないのか。
それで?その取りまとめの男は誰だ?」
「そ、それは……素性は知りません。」
「ほぉ。だとするとお前は誰から逢引きできる場所があることを知ったのだ?」
「……友人からです。」
「となると、その友人も利用者だよな。お前は何度利用したんだ?」
「……2回目です。」
「その女と?」
「……はい。」
「愚かだな。誰かに見られるかもしれない興奮があったか?開放感があったか?
逆だよ。素性を確かめられて恐喝されるネタにされるだけだ。
まぁ、お前たちを脅してもたいした金にはならなかっただろうけどな。」
既婚者や高位貴族が、配偶者や婚約者以外の者と交わっていた場合は脅しやすい。
男側も女側も同様だ。
誰にも相談できない。
できるとすれば浮気相手だが、誰かに見られるかもしれないと思うと密会もできなくなる。
ザッカリーは伯爵令息だがそれほど裕福ではないし、婚約者のココミアに切られるだけだ。
相手のレイニーは男爵令嬢で親も突出した事業がない。
つまり、脅してもつまらない相手なのだ。
誰か他のカモを紹介しないことには、そのうち利用できなくなるか利用料が高くなるのだろう。
そう説明してやると、ザッカリーは真っ青になっていた。
外でヤるなんて、貴族として致命的な愚かさだということがわかったのだろう。
この男は伯爵令息として終わった。侯爵を怒らせて廃嫡しない親などいない。
レイニーは誰かのパートナーとして夜会に来たわけではなかった。
警備の者にこっそり金を渡して入れてもらった。それだけだった。
逢引きできる方法を教えた友人と、どうやって金を支払ったかを聞き出して家に帰した。
この後、侯爵は警備長にあの場所の担当者を捕まえるように言った。
騒動を知った警備長がすでに捕まえており、首謀者や連絡方法、どの貴族の夜会で同じようなことをしているかなどを聞き出し、王都騎士団に報告した。
予約者が書かれたリストがあったり、浮気をネタに脅している最中の者がいたり………
利用者を公にはしにくいし、脅されて金を取られた者も家族に知られたくないから訴えないことにより、大きな罪になる者はいなかった。
もちろん、金を受け取って立ち入り禁止の場所に入れていた各家の警備の者はクビになったが。
夜会の翌日、ザッカリーとココミアの婚約はザッカリー有責で破棄された。
ザッカリーは伯爵家の跡継ぎからも降ろされ、学園を辞めて慰謝料を稼ぐことになった。
レイニーも婚約者のいる令息と体の関係を持っていたことを親から叱責された。
同じ男爵の令息との婚約が纏まる直前だったのだ。
純潔ではないレイニーを嫁がせるわけにはいかなくなり、話は無くなった。
あの夜会でレイニーがザッカリーの相手だと知った者が大勢いるのだ。
もう貴族には嫁げない。
それどころか、ココミアの伯爵家に慰謝料を払う必要があったため、レイニーも学園を辞めて働くことになった。
『大勢の貴族がいる夜会の最中』、『侯爵家の庭園』でなければ、その後の2人の家も没落するまではいかなかったかもしれない。
時と場所は考えなければならない。
浮気をしている者たちには冷や汗をかくような出来事だった。
あと数か月で卒業だったザッカリーとレイニーの退学は、一学年下のビアンカとココミアの騒動と絡み合って面白おかしく脚色されつつあった。
しかし、その都度デントが訂正したことによってデントの学年には正しい経緯が伝わるようになり、下の学年のような騒ぎにはならなかった。
そもそも、ザッカリーとデントでは人望が違うのだ。
ザッカリーは事業絡みの婚約者がいてもレイニーと浮気していた。
デントは子爵から伯爵令息になったばかりだが、真面目で期待されている男なのだ。
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