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しおりを挟む母が今も生きているのは父のお陰なのだと思うと感動だわ。
「そうしてひと月ほど過ごした後、私は父に申し出た。公爵家の跡継ぎにはなれない、と。」
え……母に告白は?
「私は後悔し続けていた。なぜあの時、フルールを廊下で待たせなかったのか、あるいは侍女を探して来てくれとリンジーベルの部屋から遠ざけなかったのか、と。」
リンジーベルとスタッドが寝室で浮気をしていたときのことね。
「浮気を確認することに夢中で気づいていなかったのだが、リンジーベルの母親が部屋にやって来た時、フルールは私のすぐそばにいたんだ。つまり、話の内容は全部聞こえていたということだ。」
それでも寝室を見ようとした母は何を思っていたのかしら。別人の可能性があると?ないでしょ。
「私は心のどこかで、リンジーベルとスタッドの関係が単なる従姉弟なのかと疑う気持ちがあった。彼らはすごく仲がよくてね、ひょっとするとお互いが初恋という可能性はあると思っていた。
さすがにあそこまでの関係だとは思わなかったし、フルールに至っては全く疑いすら持っていなかったはずだ。」
つまり、父と母では衝撃の度合いが違ったってことね。男と女でも違うかもしれないけれど。
「間接的にスタッドをフルールに紹介したようなものだったし、あんなところを見聞きするはめになってしまったし、学園での噂も私が後手に回ったせいだし、痩せ細ってしまったフルールを見て私の責任だと思った。」
だから、甲斐甲斐しく世話をしていたのね。
「フルールの側を離れられない。目を離したくない。そう思って、父に跡継ぎにはなれないと申し入れた。
父には同情で人生を棒に振る気かと言われたよ。でもその時の私には同情なのか何なのかもわからなくなっていた。
時々、微かな笑顔を見せてくれるフルールが嬉しくて、昔みたいな笑顔を取り戻してやりたくて。
公爵家には弟がいる。私でなくとも構わない。だが、フルールは私を必要としてくれている。そう勝手に判断したんだ。」
勝手に判断?側にいてほしい、あなたが必要だと言われたわけじゃないのね。
「父は頑固な私に折れて許してくれたよ。フルールに不要だと捨てられたら弟の下について働け、とね。」
お祖父様なら、そう言いそうだわ。
跡継ぎには戻さないけれど、誰かに取られるくらいなら弟を支えて公爵家のためになれって。
「そして私はこの侯爵家に雇ってくれと押しかけた。義父上たちには驚かれたよ。
とんでもない、そんなつもりでフルールと過ごしてもらったんじゃない、とね。」
あぁ、今頃気づいたわ。
この時の父はすでに母中心の考えになっているんだわ。今と同じように。
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