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母は嘘の噂に未だ悩まされていて、社交界が苦手なのかもしれないとローゼマリーは思った。
 

「リンジーベルの父、侯爵は私が発言したことはリンジーベルの純潔が疑われる内容だと非難してきた。
しかし、侯爵がスタッドの父にリンジーベルの名声回復を命じたことが発端でフルールの名声を貶めたのだと反論すると、さすがに侯爵も言い返せなかった。
同じ侯爵令嬢でも、リンジーベルとフルールでは立場が違う。フルールは次期侯爵であるため、名声が傷つけられる重みが違うんだ。
侯爵は非を認め、リンジーベルを侯爵家の籍から抜いた。」


リンジーベルとスタッドは二人とも平民になったということね。
そう言えば、父は最初に言ったものね。『男女の友人関係で貴族の地位まで失うことになった男女の話』だと。 

 
「卒業を前に、二人は平民になったのだが当時は気づく者はほとんどいなかった。
卒業式に二人の名前が呼ばれないということは、卒業資格がないということだ。単なる欠席の場合は名前も呼ばれるし卒業証書もある。 
気づいた者は、貴族ではなくなり卒業すらさせてもらえなかったのは二人の浮気が事実だからだとわかっただろう。
しかし、気づかなかった者は、卒業式にやってきた今にも倒れそうなフルールを、責めたんだ。」


あぁ、母はなんとつらい思いをしてしまったのだろう。


「みんなの憧れだった私とリンジーベルの関係を壊したのはお前だと罵られたフルールは唇を噛みしめていた。私は『裏切ったのはあの二人でフルールは被害者だ』と彼女たちに言ったが、今度はフルールが私を唆してそんなことを言わせていると言い出し始めた。 
何を言っても無駄だとわかり、私はフルールを抱き上げて連れて帰った。フルールは骨と皮だけなくらいに痩せ細っていた。」
 

死んでしまうわ。あ……生きているわ。 


「フルールの母は、あれからほとんど食事ができないのだと私に言った。卒業式には出ると言ったから王都に居たが、その後は領地で静養させようと思っていると。跡継ぎも誰か親戚を探すつもりだと。男が怖くなっているようで、結婚も子供も望めないだろうから、と。
私は反対した。跡継ぎを変えるのはまだ早い、と。フルールは次期侯爵としていろいろと頑張っていた。居場所を奪ってしまうと生きる気力さえ無くなってしまうと思ったんだ。」 

 
父は、母の生気を取り戻したかったのね。


「それから私はフルールの元へと通いつめた。果物をジュースに、野菜をスープにしてもらって一緒に飲んでほしいと頼んでね。
家族や使用人ではない者の前では醜態を晒したくないと思うだろう?私が一緒にいると、吐き気が治まるんじゃないかと思ったんだ。
実際、フルールは吐かなかった。つまり、栄養をとれるようになった。」 


父は、母の命を救ったのだわ。 
 


 
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