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兄は、マチルダがロベルトを狙っていると思っているようだった。 


「そんな、友人だと言いながら、狙うような子には思えないわ。」

「友人だからこそ、だよ。そもそも、友人になれるということは、知人より一歩進んだ関係だ。
どうしても受け入れられないところがあれば友人をやめればいい。でも、友人のままでいるということは許容範囲にいるということだ。他人よりも有利なんだ。
ロベルトの場合は、お前が彼女の友人だから仕方がなく友人でいるのだと思うが。」

「え……?ロベルトがマチルダと友人なのは私が紹介したからだけど、ロベルトは嫌だったの?」
 
「僕が見る限り、そう思ったよ。」

「じゃあ、どうして?」

「マチルダ嬢のそばにはグレッグがいるからだよ。ローゼマリーとマチルダ嬢、そしてグレッグと三人で一緒にいるようになればどうなると思う?」


どうなるって、どうなるの? 


「最初は三人で過ごしていても、そのうちマチルダ嬢は時々抜けるようになる。『先に二人で食べてて』とか、『都合が悪くなったから二人で遊びに行って』とか。」

「……つまり、友人だと言いながら、私がグレッグに狙われていたかもしれないのね。」


しかも、マチルダが浮気に見えるよう、そう仕向けていたかもしれないと兄は言っているのだ。


「だから、ロベルトはお前のそばにいて、マチルダ嬢とグレッグとも友人関係を続けていたんだ。」

「そう言ってくれれば……」

「お前はマチルダ嬢の友人を止めたか?」
 
「…………」


マチルダやグレッグが何をしたわけでもないのに疑うようなことを言うロベルトを非難したかもしれない。

 
「ひとまず、マチルダ嬢はロベルトに接近を試みたんだと思う。ロベルトは彼女の思惑にわざと乗ったんだろうな。だから、お前とお揃いのネックレスを買ってやることにしたんだ。」

「どういうこと?」

「誕生日パーティーで、彼女は自分がロベルトとデートしたりお前と同等の立場なのだと勘違いさせるような言動をわざとして徐々に攻めていくつもりでいたんだろう。
だが、ロベルトは逆にそれを利用して、僕や父上・母上に彼女がお前の友人に相応しくないということを知らせようとしたんだ。」

「まさか、そんな……」

「他にも気づいた貴族はいただろう。彼女のわざとらしい大声に、お粗末だと首を振っている方もいたくらいだ。」

 
何もわかっていなかった。
ロベルトは、ローゼマリーをマチルダから離すために動いていたということ。
自分が浮気者だと思われるかもしれないのに。

それなのに、二人で選んだことにも同じプレゼントを渡されたことにもローゼマリーは腹を立てず、むしろ喜んでしまった。

もし、ローゼマリーが拗ねたり不満を言ったりしていれば、ロベルトはもう一つのプレゼントを出して『自分で選んだ本当の贈り物はこっちだ』と渡してくれたに違いない。
 
おそらくネックレスは、たまたま街で会ったマチルダが強引に『一緒に選んであげる』と店に連れて入ったのだと思った。
  
そうよ。ロベルトがマチルダと待ち合わせをするはずがないもの。たまたまだったのよ。 


 


 
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