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しおりを挟むエレンが今、身に着けているものが伯爵家の妻の予算の1年分とアークライトは言ったが、全然足らないと気づき訂正しようとしたが、その前にエレンは小声で聞いてきた。
「クイン伯爵家って貧乏なの?」
と。
アークライトは思わず苦笑いをしてからエレンに言った。
「君の公爵家と比べれば、どこの貴族も貧乏さ。1年分と言ったけど訂正する。宝飾品は含まない。」
エレンは再び驚いた後、ドレスや靴を見た。『これだけで1年分?』と言いたげに。
「君が年間、夜会用のドレスを何着注文しているかはわからないが、僕たち伯爵家では夜会ごとにドレスを代えることはできないから、参加する夜会も選んでいるし、着回してもらうこともある。
宝飾品も代々受け継がれたもののデザインを変更したりして使っている。もちろん、購入もするが頻繁とはいかないしランクも最高級品とはいかない。
領民からの税だからね。妻を着飾るためだけに使えない。」
「エレン嬢の公爵領には鉱山がいくつもあるから、身に着けている宝飾品は昔からランクの高いものばかりだろう?そんなの、伯爵家ごときではなかなか手が出ない。君の金銭感覚とは合わないんだ。」
そこまでではないが金銭感覚のズレているエレンに大袈裟に言うことで、フォレスターとアークライトはエレンが伯爵家に嫁ぐのが難しいと告げたつもりだった。
だが、エレンはやはり常識外れだった。
「え?だったら、私が身に着けるものはずっと公爵家が買えばいいじゃない。それくらいの援助はしてくれるはずよ?それならクイン伯爵家に嫁いでも負担はないでしょ?
それに、さっきアークライト様の奥様に伝えてきたわ。離婚してねって。あなたよりもアークライト様の役に立てるのは私だって言ったら反論しなかったわよ?」
「なっ!!僕は妻と離婚する気はないし、君と再婚する気なんてもっとない。」
アークライトは慌ててマデリーンを探しに行った。
マデリーンがエレンと会ったとしたら、化粧室に行った時なのだろう。
まだそんなに時間は経っていないのだから、フォレスターがエレンを見つける前に話をしたはずだ。
そう思い、夜会場から廊下に出ると、その先にマデリーンが佇んでいるのを見つけた。
「マデリーン!よかった。ここにいたか。」
マデリーンは泣きそうな顔をしていた。
「こっちで話そう。おいで。」
廊下では人が行き交うため話にくい。ちょっとしたことでもすぐに噂になるから。
マデリーンの手を引き、庭園の方に向かった。
「さっき、エレンという女性に会わなかったか?離婚しろって言ったらしいが。」
「……お名前は存じませんが、すごくお綺麗な方にそう言われました。アークライト様の妻に相応しいのは私だからって。私の方が役立てるってそう言っていました。」
「いやいやいや、相応しくも役立つこともないから。むしろ、破滅を呼ぶ女だから。」
「え……?破滅?」
「彼女はこの国随一の公爵家の娘で、隣国に嫁いだけど離婚して戻ったんだ。それで再婚相手を探している。
僕も目をつけられていたんだが、フォレスターからの情報で彼女から逃げるために再婚相手を探した。
その時にフォレスターはランクス伯爵から君の話を聞いて、僕と引き合わせたんだ。」
「逃げる?あの方から?」
「彼女は僕の同級生でね、周りのクラスメイトが使用人扱い同然だった。しかもそれを悪いとも思わない。
それに、金銭感覚が他の貴族とは桁違いにズレてるんだ。
公爵家から援助を受けられたとしても、それがいつまでのことかはわからない。使用人の質も料理の質も何もかも上げることになる。彼女が伯爵家のレベルに合わせる気なんてあるわけがないから。」
クイン伯爵家の財政を圧迫し、破滅に導く女。それがエレン。
アークライトの必死さに離婚はないとわかってくれたのか、マデリーンは苦笑した。
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