15 / 24
15.
しおりを挟むアークライトとマデリーンは、比較的若い世代が集まる小規模な夜会に何度か参加した後、大規模な夜会に参加することにした。
というのも、親世代はマデリーンの義母であるランクス伯爵夫人の言い分を信じている人がおり、アークライトの母が否定しても噂は一向になくならない。
その原因が、マデリーンがいなくなればアークライトの妻の座がまた空くということを期待している貴族もいるからということはわかっていた。
そんな中、マデリーンが姿を見せてしまってはどんな陰口を言われるかわかったもんじゃない。
まずは、若い世代にアークライトとマデリーンの仲が良好であることを見せつけ、マデリーンが問題のあるような女性ではないことを知ってもらおうと思ったのだ。
そして、母のお茶会に出席してくれた夫人たちのお陰もあり、マデリーンが明るく優しい女性で5歳の時から会っていない義母の言うことはデタラメだと印象づけることができた。
「マデリーン、大丈夫だ。心配いらない。」
「……ごめんなさい。緊張しすぎて力が入りすぎていました。」
マデリーンは大規模な夜会の人の多さに圧倒されたのか、アークライトの腕を痛いほど握りしめていた。
「父と義母はどこに……」
マデリーンは5歳以降、義母に会っていない。
父と一緒でなければ義母の顔もわからないという。
この夜会で顔を覚えておかなければ、どこかで声をかけられてもわからず、義娘に無視されたと言いふらされるハメになる可能性が高い。
「んー……あ、あそこにいるな。」
「……15年ぶりですけど、思い出しました。父は疲れているように見えます。」
遠目に見えた義母は、マデリーンに『そういえばあんな感じの顔だったかも』と昔の記憶を呼び起こさせたようだった。
それにしてもマデリーンの義母は今35歳のはず。あのドレスも化粧も派手な気が……
隣にいるランクス伯爵の存在が小さく見えた。マデリーンもそう思ったようだ。
つまり、領地でのマデリーンの扱いを指示したのが義母であるという証拠を見つけられず、ランクス伯爵は妻をたしなめることができなかった。そういうことだろうとアークライトは判断した。
マデリーンの義母であるランクス伯爵夫人は口が上手く友人も多い。
しかし、どちらかと言えば爵位の下の者との付き合いの方が多いということを母からは聞いている。
高位貴族よりも数の多い下位貴族を味方にしているのだ。
ランクス伯爵が疲れて見えるのは、おそらく夫人が余計なことを言うからだろう。
マデリーンがクイン伯爵家に嫁いだことは広まっている。
そのことを祝福するために声をかけてくる貴族に対し、マデリーンの言動を不安視する優しい義母のような演技でもしているのだろう。
自分が醜聞のネタになりつつあることを自覚できていないからだ。
1,212
お気に入りに追加
1,294
あなたにおすすめの小説
ある辺境伯の後悔
だましだまし
恋愛
妻セディナを愛する辺境伯ルブラン・レイナーラ。
父親似だが目元が妻によく似た長女と
目元は自分譲りだが母親似の長男。
愛する妻と妻の容姿を受け継いだ可愛い子供たちに囲まれ彼は誰よりも幸せだと思っていた。
愛しい妻が次女を産んで亡くなるまでは…。
【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜
まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。
ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。
父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。
それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。
両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。
そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。
そんなお話。
☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。
☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。
☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。
楽しんでいただけると幸いです。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
今から婚約者に会いに行きます。〜私は運命の相手ではないから
毛蟹葵葉
恋愛
婚約者が王立学園の卒業を間近に控えていたある日。
ポーリーンのところに、婚約者の恋人だと名乗る女性がやってきた。
彼女は別れろ。と、一方的に迫り。
最後には暴言を吐いた。
「ああ、本当に嫌だわ。こんな田舎。肥溜めの臭いがするみたい。……貴女からも漂ってるわよ」
洗練された都会に住む自分の方がトリスタンにふさわしい。と、言わんばかりに彼女は微笑んだ。
「ねえ、卒業パーティーには来ないでね。恥をかくのは貴女よ。婚約破棄されてもまだ間に合うでしょう?早く相手を見つけたら?」
彼女が去ると、ポーリーンはある事を考えた。
ちゃんと、別れ話をしようと。
ポーリーンはこっそりと屋敷から抜け出して、婚約者のところへと向かった。
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
騎士の妻でいてほしい
Rj
恋愛
騎士の父を持ち自身も騎士になったイーサンは、幼馴染みで騎士の娘のリンダと結婚し幸せだったが妻の献身にあぐらをかき離婚の危機をむかえた。かろうじてやり直しのチャンスを得たイーサンだが、リンダが環境をかえ今後のことを考えるために王都で働くことになった。リンダに捨てられると恐怖にかられたイーサンはリンダを追い王都へむかう。イーサンはリンダと本当の意味でやり直すことができるのか。
*所々に下品な表現があります。
『騎士の妻ではいられない』の続編ですが前作を未読でも問題なくお読み頂けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる