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6.
しおりを挟む服は毎年3枚渡されるが、それまでの服は売られたり誰かが貰ったりしていたらしい。
急な来客に備え、一応部屋には置いてあったが着る服はメイド服だけだったという。
「では家庭教師の費用や、君の小遣いはいったいどこへ?」
「毎月、計上はされていたようですので領地の屋敷の使用人のものになっていたのでしょう。父は私が何も受け取っていないことに驚き、詳しく調査をすると怒っていました。」
「それはそうだな。領地の使用人は伯爵に仕えているはずなのに何も報告をせず金品も奪っている可能性があるとなると許されるべきではない。たとえ、伯爵の妻が指示していたのだとしても、それは間違いだ。」
父の言う通りだ。
それにしても、マデリーンが領地に行ってからは後妻は王都にいたはずなのに、なぜ領地の屋敷の使用人たちは後妻に従っていたのだろうか。
まさか、侍女が辞めた後、マデリーンをイジメるための者をわざわざ領地へと送り込んでいたのではないか。
マデリーンに関する金を全部自分たちで分け合っていいと言えば、喜んで従う者を。
伯爵令嬢の月々の費用は使用人たちにとっては大金なのだから。
マデリーンの侍女が退職してから10年と少し。
その間、ずっとマデリーンは無給で働かされていたのに対し、一部の使用人たちは月々の給金に加えてマデリーンのために用意されたお金を分け合っていたのだろう。
……腹が立つな。
「ランクス伯爵が調査をしても、伯爵夫人は領地の使用人が勝手にしたことだと白を切るでしょうね。
それどころかもう既に、彼らは領地の屋敷から逃げているのではないかしら?マデリーンのお金を奪い、使用人として働かせていたことが伯爵にバレたら捕らえられるとわかっていたはずだわ。
いくら伯爵夫人の指示でも証拠はないだろうし、実行したのは彼らなのだもの。」
母の言う通りだ。
伯爵の妻が後ろ盾になってくれるはずがないし、なったとしても共倒れだ。
妻が認めた場合、伯爵は離婚するだろうから。
結局、使用人たちはバレるまでいい思いをしただけのこと。
逃げたであろう彼らは、紹介状もなしに貴族の屋敷では働けない。
見つからないように、コソコソと生きていくことになるだろう。見つかれば牢屋行きだ。
「犯人探しと伯爵夫人の対応はランクス伯爵に任せるしかないですね。
マデリーンは僕と結婚したわけだけど、僕の後妻に望む条件のことは伯爵から聞いているかな?」
「あ、はい。それを聞いている時に、淑女教育を受けていない私では社交ができなくて条件に合わないと父には言ったのですが……」
「つまり、それがランクス伯爵が『広い心でお許しください』と言った言葉に繋がるってわけだね。」
アークライトもマデリーンも、そして両親も苦笑いだ。
「私、頑張って学びます。どうかお時間をいただけないでしょうか。」
頭を下げるマデリーンに母が言った。
「ふふ。素直で頑張る子は私、好きよ。私が教えてあげるから頑張りましょうね。今、シェリーにも簡単に教えているところなの。シェリーというのはアークライトの6歳の長女よ。」
「あの、私、お子様たちにお会いせずに結婚してしまいましたが大丈夫でしょうか。」
「大丈夫よ。少しずつ仲良くなってくれたらいいわ。」
そうだな。マデリーンなら子供たちとも仲良くなりそうだ。
あの時、フォレスターに言った後妻の条件。
まさか、淑女教育が終わっていない貴族令嬢がいるなんて思いもしなかったから条件に入れなかったからなぁ。
でも母の様子を見る限り、マデリーンに見込みはあるのだろう。
母はマデリーンに会って見抜いた上で、結婚に反対しなかったのだから。
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