上 下
38 / 43

38.

しおりを挟む
 
 
「…近頃の令嬢たちは婚約者がいても遊びや不貞をする風潮があるのか?」

ショコルテ公爵の呟きに騎士団長が答えた。

「下位貴族の次女とかは、愛人狙いですね。
 平民や商人に嫁ぐより、住居とドレスと宝石を貰って自分の体を魅力的に保つ。
 子供を産んで体の線が崩れた正妻よりも自分を抱きに通う男。それ狙いです。
 10年も経てば捨てられて次の愛人を囲うなんて考えてもいないんです。」

「今、ナフィン侯爵に愛人はいるのか?」 
 
「それは把握してないですね。
 それより気になったのが行方不明者です。
 覚えていますか?ラキが埋めた2つの死体。前ナフィン侯爵が娼婦だと言った…」

「まさか、娼婦ではなく令嬢だったと言うのか?」

「もし、殺したのが現ナフィン侯爵だったなら?
 行方不明者の一人がクララ夫人の友人。可能性はあると思いますが。」 

「だが、屋敷で令嬢を殺したなら、使用人の誰かが来た時の姿を見ているだろう? 
 知らない間に帰ったと思うか?
 しかも、婚約者ではない令嬢をあの男が屋敷に入れるか?」

「…別邸とか?ラキはどこから死体を運び出したのでしょう…確認します。」

「ああ。もし、ナフィン侯爵が犯人ならクララ夫人は知っているのかもしれない。
 脅されて従っているのかもな。…今回の髪も。」





髪を肩辺りまで切られたフィルリナは、侍女に綺麗に切り揃えてもらって髪を編み込まれた。
侍女たちの腕はすごいと感心してしまう。
髪を下ろさない限り、長さはわかり辛い。ボリュームがないので短いことはバレるが。
しかし、軽いし早く乾くし楽でいいなぁなんて思っていた。
アリシアも少し切ろうかなぁって言っていた。

フィルリナは、昨日の犯人はもう現れることはないだろうと思っていた。
ひと房の髪ではなく一握りの髪。もう満足したはずだ。
思わぬ事件で吹っ飛んでしまったが、フィルリナにはその前の出来事の方が重要だった。
…『愛してる』って言ってくれた。『結婚』しようって。
公爵夫人代理として前はそばにいたいと思っていたけれど。
セラフィーネ様との離婚でクロード様は再婚が可能になった。
諦めていたのに、自分を選んでくれた。子供たちの実母ということもあるだろう。
体を求められるだけじゃなく、公にそばにいられるようになることも嬉しかった。


「アリシア、ジェフリー様との婚約だけど、本当にもう決めていいの?
 慌てなくても、何度かお会いしてからでいいのよ?」

アリシアの顔が急に真っ赤になった。

「…だって。誰かに取られてしまうわ。あんなに素敵な人。
 前の婚約者の令嬢が信じられないわ。どうして不貞なんてしたのかしら。」

ジェフリーは穏やかで真面目な青年である。
婚前交渉を仄めかす婚約者を窘めた結果、別の男と関係をもってしまい、身籠った。


ここ10年ほど、未婚なのに純潔ではない下位貴族令嬢が増えたらしい。
相手は既婚貴族や学園の令息などが多い。
妻や婚約者がいるとわかっていて遊びでもいいと同意の上だ。あわよくば愛人になれる。
そんな令嬢たちが、行為の気持ち良さを吹聴したりして、未経験の令嬢も興味を持つ。
遊びを知っている令嬢は、初めての経験で避妊薬の重要性を教えられる。
それをわざわざみんなに教えない。一種の悪意だ。
妊娠しやすい時期の詳しい閨教育を受けていなければ、身籠る可能性もあるのだ。


「本当に学園には一年しか行かなくていいの?
 16歳で結婚しなくても18歳までジェフリー様は待ってくれるわよ?」

「ジェフリー様の卒業と入れ替わりに私は入学するでしょ?
 3年も婚約者のままカシュー伯爵領のために仕事をしてもらうなんて嫌なの。
 自分が学園で遊んでいるみたいだわ。」

「なら、やっぱりアリシアが18歳まで私が伯爵の仕事をした方がいいのかしら…」

「ダメよ!お姉様は私が16歳になればクロード様と結婚!
 そして、私もジェフリー様と結婚してカシュー伯爵領の仕事をするの。これは決定よ!」

まだ正式に婚約を結んでいないのに、アリシアの中では決定らしい。

 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

悪役令嬢は皇帝の溺愛を受けて宮入りする~夜も放さないなんて言わないで~

sweetheart
恋愛
公爵令嬢のリラ・スフィンクスは、婚約者である第一王子セトから婚約破棄を言い渡される。 ショックを受けたリラだったが、彼女はある夜会に出席した際、皇帝陛下である、に見初められてしまう。 そのまま後宮へと入ることになったリラは、皇帝の寵愛を受けるようになるが……。 「悪役令嬢は溺愛されて幸せになる」というテーマで描かれるラブロマンスです。 主人公は平民出身で、貴族社会に疎いヒロインが、皇帝陛下との恋愛を通じて成長していく姿を描きます。 また、悪役令嬢として成長した彼女が、婚約破棄された後にどのような運命を辿るのかも見どころのひとつです。 なお、後宮で繰り広げられる様々な事件や駆け引きが描かれていますので、シリアスな展開も楽しめます。 以上のようなストーリーになっていますので、興味のある方はぜひ一度ご覧ください。

平凡令嬢の婚活事情〜あの人だけは、絶対ナイから!〜

本見りん
恋愛
「……だから、ミランダは無理だって!!」  王立学園に通う、ミランダ シュミット伯爵令嬢17歳。  偶然通りかかった学園の裏庭でミランダ本人がここにいるとも知らず噂しているのはこの学園の貴族令息たち。  ……彼らは、決して『高嶺の花ミランダ』として噂している訳ではない。  それは、ミランダが『平凡令嬢』だから。  いつからか『平凡令嬢』と噂されるようになっていたミランダ。『絶賛婚約者募集中』の彼女にはかなり不利な状況。  チラリと向こうを見てみれば、1人の女子生徒に3人の男子学生が。あちらも良くない噂の方々。  ……ミランダは、『あの人達だけはナイ!』と思っていだのだが……。 3万字少しの短編です。『完結保証』『ハッピーエンド』です!

処理中です...