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しおりを挟む「…近頃の令嬢たちは婚約者がいても遊びや不貞をする風潮があるのか?」
ショコルテ公爵の呟きに騎士団長が答えた。
「下位貴族の次女とかは、愛人狙いですね。
平民や商人に嫁ぐより、住居とドレスと宝石を貰って自分の体を魅力的に保つ。
子供を産んで体の線が崩れた正妻よりも自分を抱きに通う男。それ狙いです。
10年も経てば捨てられて次の愛人を囲うなんて考えてもいないんです。」
「今、ナフィン侯爵に愛人はいるのか?」
「それは把握してないですね。
それより気になったのが行方不明者です。
覚えていますか?ラキが埋めた2つの死体。前ナフィン侯爵が娼婦だと言った…」
「まさか、娼婦ではなく令嬢だったと言うのか?」
「もし、殺したのが現ナフィン侯爵だったなら?
行方不明者の一人がクララ夫人の友人。可能性はあると思いますが。」
「だが、屋敷で令嬢を殺したなら、使用人の誰かが来た時の姿を見ているだろう?
知らない間に帰ったと思うか?
しかも、婚約者ではない令嬢をあの男が屋敷に入れるか?」
「…別邸とか?ラキはどこから死体を運び出したのでしょう…確認します。」
「ああ。もし、ナフィン侯爵が犯人ならクララ夫人は知っているのかもしれない。
脅されて従っているのかもな。…今回の髪も。」
髪を肩辺りまで切られたフィルリナは、侍女に綺麗に切り揃えてもらって髪を編み込まれた。
侍女たちの腕はすごいと感心してしまう。
髪を下ろさない限り、長さはわかり辛い。ボリュームがないので短いことはバレるが。
しかし、軽いし早く乾くし楽でいいなぁなんて思っていた。
アリシアも少し切ろうかなぁって言っていた。
フィルリナは、昨日の犯人はもう現れることはないだろうと思っていた。
ひと房の髪ではなく一握りの髪。もう満足したはずだ。
思わぬ事件で吹っ飛んでしまったが、フィルリナにはその前の出来事の方が重要だった。
…『愛してる』って言ってくれた。『結婚』しようって。
公爵夫人代理として前はそばにいたいと思っていたけれど。
セラフィーネ様との離婚でクロード様は再婚が可能になった。
諦めていたのに、自分を選んでくれた。子供たちの実母ということもあるだろう。
体を求められるだけじゃなく、公にそばにいられるようになることも嬉しかった。
「アリシア、ジェフリー様との婚約だけど、本当にもう決めていいの?
慌てなくても、何度かお会いしてからでいいのよ?」
アリシアの顔が急に真っ赤になった。
「…だって。誰かに取られてしまうわ。あんなに素敵な人。
前の婚約者の令嬢が信じられないわ。どうして不貞なんてしたのかしら。」
ジェフリーは穏やかで真面目な青年である。
婚前交渉を仄めかす婚約者を窘めた結果、別の男と関係をもってしまい、身籠った。
ここ10年ほど、未婚なのに純潔ではない下位貴族令嬢が増えたらしい。
相手は既婚貴族や学園の令息などが多い。
妻や婚約者がいるとわかっていて遊びでもいいと同意の上だ。あわよくば愛人になれる。
そんな令嬢たちが、行為の気持ち良さを吹聴したりして、未経験の令嬢も興味を持つ。
遊びを知っている令嬢は、初めての経験で避妊薬の重要性を教えられる。
それをわざわざみんなに教えない。一種の悪意だ。
妊娠しやすい時期の詳しい閨教育を受けていなければ、身籠る可能性もあるのだ。
「本当に学園には一年しか行かなくていいの?
16歳で結婚しなくても18歳までジェフリー様は待ってくれるわよ?」
「ジェフリー様の卒業と入れ替わりに私は入学するでしょ?
3年も婚約者のままカシュー伯爵領のために仕事をしてもらうなんて嫌なの。
自分が学園で遊んでいるみたいだわ。」
「なら、やっぱりアリシアが18歳まで私が伯爵の仕事をした方がいいのかしら…」
「ダメよ!お姉様は私が16歳になればクロード様と結婚!
そして、私もジェフリー様と結婚してカシュー伯爵領の仕事をするの。これは決定よ!」
まだ正式に婚約を結んでいないのに、アリシアの中では決定らしい。
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