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しおりを挟むサミールの姿を見るのは卒業パーティー以来だった。
もう会うこともないまま隣国に向かうと思っていたけれど、訪れてくれたのであれば最後に話をしたいと思った。
サミールは、ひと月も経たない間に少し痩せていた。
「アミディア、が、婚約して隣国で暮らすと聞いて……」
「ええ。この間ご紹介したオルビス様と婚約したの。結婚して向こうで暮らすわ。
1週間後に旅立ったら、もうほとんどこの国には戻らないと思う。
サミールに会うのもこれが最後かもしれないわね。」
「会ったばかりの男と結婚して、幸せになれるのか?
俺のせいでこの国から出て行くのなら、やめてくれ。
メレディスとのことは悪かった。あんなことになるつもりはなくて……
彼女も俺とアミディアが結婚するとわかっていた。奪うつもりでそばにいるのではないと言ってた。
アミディアがここにいたいなら君と結婚できるように親もメレディスも説得する。だから……」
「サミール、あなた、勘違いしているわ。
私はこの国を出て行きたいの。この国にも、あなたにも、未練はないわ。」
「そんな……俺が好きだって言ってたじゃないか。」
最後にあなたを好きだと言ってから、もう3年以上経つのよ。
その間に話した回数なんて片手で足りるわ。
それなのにいつまでも私があなたを好きだと思っているなんて。
メレディスと親しくしていても何も言わなかったことを都合のいいように解釈した?
でも、何度も婚約解消をお願いしたのに。
「そうね。子供の頃、私の髪色が綺麗だって言ってくれたことが嬉しかった。
家族以外、まるで私が呪うんじゃないかっていう目で周りは見てくるのに、あなたは平気だった。
小さい頃からこの国にいるのが苦痛だったけど、気にしない人もいるとわかった。
確かにそんなあなたが好きになったわ。婚約できて嬉しかった。
あなたがそばにいてくれるのであれば、この国でも過ごせると思ってたわ。
でもあなたは学園に入ってから周りに流されて私を避けるようになった。
別に守ってほしかったわけじゃない。側にいてくれるだけでよかったのに。」
「……ごめん。後悔してる。」
その後悔は本当に遅かったの。謝罪されてもどうしようもないことだし。
「それでいて、まだ私があなたを好きか確かめるようにメレディス様を隣に置き始めた。
最低な行為よね。気づいていたわよ?彼女を利用しているんだってことは。
そんな卑怯なあなたの婚約者でいる意味はないと思った。
でも、あなたは婚約解消もしてくれない。
公爵様もあなたの気持ちをわかっていたから、解消を認めてくれなかった。
だけど、あなたが彼女と関係を持ったことで公爵様もあなたを諦めたの。」
「……本当に、そんなつもりはなかったんだ。」
「嵌められたのでしょうけど、もうどうしようもないわ。
今後のあなたの役割は、彼女を監視することになるでしょうから。」
「監視?なんで……」
サミールはあまり人を疑わないところが公爵令息としてダメなところね。
だからメレディスなんかに付け入られて逃げられないようにされてしまうのよ。
まさか、メレディスが強硬手段に出るとは思っていなかったのよね。
私も公爵様も。
サミールはメレディスを好きなわけではないのは知っていたから、自分から手を出すことは絶対にしないと思っていた。
メレディスが別の男とも関わりがあると知っていたのに、まさかサミールに体を使うとは思わなかった。
そこまで貞操観念がなく手段を選ばない令嬢だとは思ってなかったの。
だけど、結局そのことでメレディスは公爵家にとって監視が必要な人物となってしまった。
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