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タブロット伯爵家には、今後についての話し合いをしたいと連絡をしていた。

婚約解消について、とは言わなかった。

アグリーとタブロット伯爵夫妻の考えが同じであるかどうかはわからないため、目の前で婚約解消を告げた時の反応を見たかったからだ。

アグリーと同じく侯爵家に嫁ぐと思っているならば愚かな親で、婚約解消をすぐに受け入れるならば常識のある親だ。

金遣いは荒く代々の財産を食い潰しそうな親ではあるが、領民に負担を強いるほど落ちぶれてはおらず、ジュリアスが婿入りした際は徐々に管理権を奪っていくつもりだった。
アグリーのような浅ましい考えを伯爵は抱いていないはずだというのがケージ侯爵とジュリアスの意見だった。


「わざわざお越しいただきありがとうございます。
 改めまして、コンラッド殿のことはお気の毒でした。早く犯人が見つかることを願っています。」

「ありがとうございます。
 本日は、ジュリアスとアグリー嬢の婚約について早めに処理をしておこうと思いましてね。
 そうでないとアグリー嬢の今後に響くでしょうから。」

「あぁ、ジュリアス殿の婿入りからアグリーが嫁に行くと変わりましたからね。
 婚約時の契約内容も見直す必要がありますね。」

「ん?伯爵、どういうことですかな?アグリー嬢が嫁に来るなど、なぜそんなことに?」


ケージ侯爵がとぼけたようにタブロット伯爵に問いかけると、伯爵は不思議そうな顔をした。


「ジュリアス殿がケージ侯爵家を継ぐから自分は嫁ぐことになるとアグリーが。
 伯爵家は親戚から跡継ぎを探すようにと言われたのですだが……アグリー、どういうことだ?」


伯爵は隣に座っているアグリーに聞いた。 


「どうって……私はジュリアス様の婚約者です。
 ジュリアス様が跡継ぎになるなら私は侯爵家に嫁ぐってことですよね?」

「跡継ぎはコンラッドの息子のホープだ。ジュリアスではない。
 ただ、ジュリアスが中継ぎになるというので、君との婚約は解消することになる。
 その手続きに今日は訪れたのだよ。
 ホープがいることを知っているというのに、非常識なことを……呆れたものだ。」


ケージ侯爵とジュリアスは侮蔑するような目をアグリーに向けた。
アグリーは怯えた表情になり、タブロット伯爵は慌てて言った。


「申し訳ございません。てっきりアグリーがジュリアス殿からそう言われたのだと勘違いしました。
 どうぞアグリーをお許しください。」

「では円満な婚約解消といこうではないか。」

「はい。もちろんでございます。」

 
婚約解消の書類にサインをし始めた父を見て、アグリーは悪あがきのように言った。


「どうして?ジュリアス様が侯爵になればいいじゃない。
 コンラッド様の子供が跡継ぎなら、私たちが親になればいいわ。
 ね?そうしましょう?親がいないと可哀想よ。」


アグリーはジュリアスに向けてそう言ったが、答えたのはケージ侯爵だった。


「……君はホープにはプリズムという母親がいることを無視しているのか?
 それに、君がプリズムとホープに出て行くように言ったところをジュリアスが見ていた。
 君のような醜悪な女性を侯爵家には迎えたくない。
 私たちは円満に解決しようと今、手続きをしている。
 これ以上怒らせると君の所業を世間に知らしめなければならなくなるが?
 痂疲なく婚約解消して婿入りしてくれる男を探すなら口を慎め。わかったか?」


ケージ侯爵の言葉に、アグリーは真っ青になって頷いた。


その後は俯いたアグリーに邪魔をされることなく手続きを終え、ケージ侯爵とジュリアスはタブロット伯爵家を後にした。
書類は帰りに侍従に提出させた。


ジュリアスはアグリーを怒鳴りつけそうになるのを耐えて、口を噤んでいた。 

結局、婚約者だったアグリーとの最後の時間は一言も話すことはなかったのだ。

それに、禍根を残すことなく別れるために『こんなことになってごめん』『今までありがとう』など、不本意ながらでも告げるはずだった言葉をジュリアスは思い出しもしなかった。

 

 
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