上 下
5 / 23

5.

しおりを挟む
 
 
コンラッドの葬儀から数日後、プリズムは実家の両親に手紙を書いた。

ケージ侯爵家はジュリアスが跡を継ぐようで、ホープとプリズムが侯爵家にいることは邪魔になる。
なので伯爵家に戻り、領地の屋敷でホープが成長するまで過ごさせてもらえないか、と。

書いた手紙を侍女に送ってもらうように伝えて、プリズムは少しずつ荷物を纏め始めた。

この囲われた大きな檻から解放されて、懐かしい自由な伯爵領へ。

プリズムの気持ちは既に伯爵領へと飛んでいた。

順当にいけば、ホープがケージ侯爵家の跡継ぎであるためにプリズムは出て行くことなど考えもしていなかった。
しかし、アグリーに言われたことで道が拓けた気がした。
輝かしい未来があったはずのホープには申し訳ないが、まだ生後4か月にもならない赤子。
将来は平民だと言って育てれば、なりたい職業も見つけられるだろう。

優しい両親も兄も、喜んで迎え入れてくれるとわかっている。
なんなら、手紙を読んだらすぐに馬車を回してくれるのではないかと思うほどに。







一方でジュリアスは、両親と話し合っていた。 


「なにっ!アグリー嬢がプリズムにホープと共に出て行けと言っていただと?」
 
「ええ。父上、僕は彼女との婚約を解消します。いいですよね。
 僕はホープが継ぐための中継ぎとしてここに残ります。
 ホープも、義姉上、いやプリズムもどこにも行かせない。彼らは侯爵家の者です。」

「ああ、もちろんだ。
 お前がアグリー嬢と結婚してからにしようと思って、共同事業の話を進めないでおいてよかった。
 どうもあの伯爵家はうちに資金を頼りすぎている考えだからな。 
 前伯爵は良い人柄だったが、今の伯爵は金遣いが荒い。
 中継ぎは婚約解消の良い言い訳になるだろう。
 正直言って、ホープが成長するまで私が頑張らねばなるまいと思っていたから助かる。」


アグリー・タブロット伯爵令嬢には兄弟がいない。
まだ婚約者のいない妹でもいたならば、アグリーをジュリアスに嫁がせてタブロット伯爵家は妹に継がせるという方法をとれないことはない。
だが、伯爵家を親戚に継がせてまでアグリーがケージ侯爵家に嫁いで来るというのは、ジュリアスがアグリーを強く思っていてそれを望んでいる場合でないと成り立たない。

ジュリアスが婿入りするはずだったアグリーとの婚約は政略的なもので恋愛ではない。

ホープの叔父であるジュリアスが中継ぎのために婚約解消するということはあり得るのだ。 
 
ただ、ジュリアスが結婚できないというわけではない。
ケージ侯爵家の跡継ぎはホープでありジュリアスは中継ぎ。
ジュリアスとの子供は跡継ぎにはなれないとわかっている女性となら結婚しても問題ない。

しかし、実際に子供を持てば自分の子供に継がせたいと思ってしまう。
虐待にも繋がりかねないので、相手を慎重に選ぶ必要があるのだ。

アグリーのような考えを持つ令嬢を侯爵家に入れるわけにはいかない。


婚約解消の書類を用意して、タブロット伯爵家を訪れる日時を決めた。
 



 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

帰らなければ良かった

jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。 傷付いたシシリーと傷付けたブライアン… 何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。 *性被害、レイプなどの言葉が出てきます。 気になる方はお避け下さい。 ・8/1 長編に変更しました。 ・8/16 本編完結しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました

鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と 王女殿下の騎士  の話 短いので、サクッと読んでもらえると思います。 読みやすいように、3話に分けました。 毎日1回、予約投稿します。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

ずっと好きだった獣人のあなたに別れを告げて

木佐木りの
恋愛
女性騎士イヴリンは、騎士団団長で黒豹の獣人アーサーに密かに想いを寄せてきた。しかし獣人には番という運命の相手がいることを知る彼女は想いを伝えることなく、自身の除隊と実家から届いた縁談の話をきっかけに、アーサーとの別れを決意する。 前半は回想多めです。恋愛っぽい話が出てくるのは後半の方です。よくある話&書きたいことだけ詰まっているので設定も話もゆるゆるです(-人-)

処理中です...