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しおりを挟む騎士に聞かれたことに、ケージ侯爵は答えていた。
「なるほど。昨日は次期爵位を継がれる高位貴族令息の意見交換会があった、と。」
「まぁ、実質は社交クラブで遊ぶための集まりみたいなものだ。
だが昨日は、コンラッドが寄り道するなど考えられない。」
「それはなぜでしょうか。」
「なぜなら昨日は……400日記念日だからだ。」
「……は?」
昨日は、コンラッドとプリズムが結婚して400日目の記念日だった。
だから、夕食までには帰ると言ってコンラッドは出て行ったのだ。
結婚300日目に息子ホープが産まれた。
もちろん、結婚1周年記念日もお祝いした。
それからまだひと月と少しなのに、400日目のお祝いだとコンラッドは楽しみにしていた。
そんな日に、彼は亡くなった。
プリズムは伯爵令嬢だった。
12歳の時に訪れた王都郊外にある公園で、いきなりコンラッドにプロポーズされたのだ。
その頃、実は従兄の伯爵令息との婚約話が進んでいたが、まだ正式に婚約していないのであればと侯爵からも押し切られ、コンラッドとの婚約が結ばれた。
コンラッドは16歳で、どの令嬢とも婚約したくないと断り続けていたのに、プリズムに一目惚れしたことで逃すことはできなかったという。
そして、それからプリズムの地獄が始まった。
彼は婚約者として、プリズムの周りを細かく管理し始めた。
男の使用人は近づけない。
コンラッド以外と王都の街には行かない。
友人と会うときは自宅で。
他の令息とは目を合わさない、会話をしない。
そして社交界デビューも一瞬だけだった。
人目を惹くプリズムを、コンラッドは多くの貴族に見られることを嫌がったからだ。
そして、学園にも通わせてもらえなかった。
婚姻可能である16歳になったその日、身内だけで結婚式を挙げて侯爵家に入った。
2人が住むのは侯爵夫妻と義弟とは違う別棟で、プリズムはそこから出ては行けなかった。
会うことを許可されているのは、決められた使用人と義母である侯爵夫人だけ。
結婚式以来、義父であるケージ侯爵と義弟ジュリアスに会ったのは一度だけ。
息子ホープが産まれた身内だけのお披露目の時だった。
ちなみに、実家の両親に会ったのも結婚式以来この時が初めてだった。
そして、今日が401日目にして二回目。
だからジュリアスは本棟にいるプリズムを見て驚いていた。
妊娠していたことは関係なく、プリズムはコンラッドによって別棟に監禁される日々だったのだ。
婚約の時と違って、実家の家族や親戚にも会えない。
街に行くこともできない。
お茶会も夜会も行けない。
プリズムを独り占めしたいコンラッドは、自分と女性使用人以外との交流を遮断していた。
結婚する前、プリズムは一度コンラッドに聞いた。
『どうしてそこまで私が人に会うことを嫌がるの』と。
コンラッドの答えはこうだった。
『侯爵令息である私より上の身分の者にプリズムを奪われそうだから』と。
確かに、プリズムの父である伯爵も頭を悩ませていた。
社交界デビューが一瞬であったにも関わらず、茶会や夜会の招待状が一気に増えた、と。
しかし、通常であれば断りにくい誘いであっても、コンラッドが全部断ったという。
『プリズムを表に出すと結婚や婚約を壊す可能性があり、責任を持てるか』と。
顔を出さなければ、そのうち忘れ去られる。
結婚して確実に自分のものにするまで、コンラッドの言うことに従ってほしいと言われ、外出は控えた。
しかし、結婚後はもっとひどくなって屋敷から出られない。
色気が増して、より魅力的になったプリズムが外出するには店を貸し切る必要があるし、護衛の男共が連れ去らないように対策が必要だとまで言われて外出する気にもならない。
仕方なく、監禁を受け入れる日々だった。
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