出生の秘密は墓場まで

しゃーりん

文字の大きさ
上 下
14 / 20

14.

しおりを挟む
 
 
数か月後、エスメラルダは女の子を出産した。

ザフィーロの産まれた頃によく似ている。そう思った。
幸いにも、ザフィーロはエスメラルダ似だった。この子もそう。
エスメラルダも母に似たのだ。

母もレイリーも産まれた娘を嬉しそうに見ていた。

そして少し落ち着いた頃に会いに来たのがザフィーロだった。
部屋にはエスメラルダと産まれた子だけだった。


「うわー。母親そっくり。美人になるなぁ。僕にも似てる。」


間違ってはいない。いないのだが、何か違和感のある言い方に感じた。

『母親そっくり』

産まれた子にとって私は母親だから間違っていない。
だが、普段のザフィーロなら『姉上そっくり』と言うのではないだろうか。 

『僕にも似てる』

姉の子供はザフィーロにとって姪になる。血縁なので似ていてもおかしくない。
だが、実際は異父妹なので似ていて当然である。

少し自分が神経質になっているとエスメラルダは思った。 
ザフィーロがエスメラルダの子供だと知っているのは今では5人だけ。
エスメラルダと侍女、母と侍女、そしてレイリーだけだ。誰も口外することはない。心配ない……


「僕の妹だね。」

 
ザフィーロの言葉に、呼吸が止まった。
なんとか言葉を出そうとしたが、ザフィーロの顔を見るのにも時間がかかってしまった。


「……姪、よ?」

「そうだね。僕がこの部屋を出た後からは、そう振る舞うよ。」


ここ数年、いつもどこか演じているように振る舞うザフィーロが素を見せている気がした。
ここで誤魔化してはいけないと思った。


「……いつ知ったの?」

「二年くらい前にそう気づいた、かな。リルベルのことを話した時、姉上は異常な反応をしたから。
それから偶然、姉上の昔の婚約者の事件を知った。少女を愛でる性癖があったとね。
嫌なことを思い出したせいだと思ってた。だけど、姉上はリルベルのことがあってから僕をどこか警戒するように、見張るような素振りがあった。
リルベルを気に入ったことはそんなに変なことなのか、不思議だったよ。」

「それくらいで気づく?」

「もちろん、他にもいろいろあるよ。親子で癖が似る、嗜好が似ることはよくあるよね。
あの人の性癖に僕が似たのかもしれないと姉上が恐れたんじゃないかと考えれば、僕はあの人の子供ということになる。母上が産んだとは考えにくい。父上が気づいたはずだから。だから姉上になる。
僕が産まれた時期、母上と姉上は半年近く前から領地に籠っていたと聞いた。あの人の事件後のことだね。
13歳で僕を産んだことになる。どうして?」 


聡明な子だからこの二年、葛藤があったのだろう。いろんな自分を演じたのはそのせいかもしれない。


「あの人はね、私を眠らせて襲ったの。13歳の誕生日にね。
翌朝起きた時、違和感はあったんだけど気づけなかった。知識がなかったから。
両親が妊娠に気づいた時は四か月を過ぎていたの。堕胎するには私にも危険があると言われたそうよ。
婚約解消してから領地でひっそりと産む予定だったけど、事件が発覚してすぐに領地に向かった。
領地で妊娠五か月を過ぎた頃に、お母様から妊娠のことを聞いたわ。自分でも気づいたけどね。
お母様は妊婦のフリ、私は骨折したフリで部屋に籠ってあなたを産んだの。」

「そっか。僕は気づくのが遅れたから産まれることができたのか。」


確かにそうとも言えるが、それだけではない。
 


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

泣き虫令嬢は自称商人(本当は公爵)に愛される

琴葉悠
恋愛
 エステル・アッシュベリーは泣き虫令嬢と一部から呼ばれていた。  そんな彼女に婚約者がいた。  彼女は婚約者が熱を出して寝込んでいると聞き、彼の屋敷に見舞いにいった時、彼と幼なじみの令嬢との不貞行為を目撃してしまう。  エステルは見舞い品を投げつけて、馬車にも乗らずに泣きながら夜道を走った。  冷静になった途端、ごろつきに囲まれるが謎の商人に助けられ──

「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚

ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。 ※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。

拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様

オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。

愛しているのは王女でなくて幼馴染

岡暁舟
恋愛
下級貴族出身のロビンソンは国境の治安維持・警備を仕事としていた。そんなロビンソンの幼馴染であるメリーはロビンソンに淡い恋心を抱いていた。ある日、視察に訪れていた王女アンナが盗賊に襲われる事件が発生、駆け付けたロビンソンによって事件はすぐに解決した。アンナは命を救ってくれたロビンソンを婚約者と宣言して…メリーは突如として行方不明になってしまい…。

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

殿下へ。貴方が連れてきた相談女はどう考えても◯◯からの◯◯ですが、私は邪魔な悪女のようなので黙っておきますね

日々埋没。
恋愛
「ロゼッタが余に泣きながらすべてを告白したぞ、貴様に酷いイジメを受けていたとな! 聞くに耐えない悪行とはまさしくああいうことを言うのだろうな!」  公爵令嬢カムシールは隣国の男爵令嬢ロゼッタによる虚偽のイジメ被害証言のせいで、婚約者のルブランテ王太子から強い口調で婚約破棄を告げられる。 「どうぞご自由に。私なら殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」  しかし愛のない政略結婚だったためカムシールは二つ返事で了承し、晴れてルブランテをロゼッタに押し付けることに成功する。 「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って明らかに〇〇からの〇〇ですよ? まあ独り言ですが」  真実に気がついていながらもあえてカムシールが黙っていたことで、ルブランテはやがて愚かな男にふさわしい憐れな最期を迎えることになり……。  ※こちらの作品は改稿作であり、元となった作品はアルファポリス様並びに他所のサイトにて別のペンネームで公開しています。

王太子殿下の想い人が騎士団長だと知った私は、張り切って王太子殿下と婚約することにしました!

奏音 美都
恋愛
 ソリティア男爵令嬢である私、イリアは舞踏会場を離れてバルコニーで涼んでいると、そこに王太子殿下の逢引き現場を目撃してしまいました。  そのお相手は……ロワール騎士団長様でした。  あぁ、なんてことでしょう……  こんな、こんなのって……尊すぎますわ!!

処理中です...