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しおりを挟む25歳になったエスメラルダが急に結婚したことは社交界を驚かせた。
だが、相手はいつもパートナーを務めていた伯爵家三男レイリーで妥当な線だと思われた。
それよりも社交界の興味は、エスメラルダが子供を産むかどうか、だった。
ザフィーロと自分の子供、どちらを跡継ぎにするかが話題になったのだ。
その点はソンブラ侯爵も気が気でなかったであろうが他家のことに口出しはできなかった。
しかし、結婚から三年、エスメラルダにはまだ子供が生まれていない………
そして、ソンブラ侯爵家クリスタ嬢とザフィーロの婚約は白紙になった。
だが、その後にザフィーロ言った『姉上、これでリルベルとの婚約話、進めてもいいよね?』という言葉を聞いて、頭が痛くなったと……逃げた。
「わ~ん。レイリー。どうしよう。」
「何があった?」
エスメラルダより10歳年上の夫レイリーは38歳。20歳で公爵になったエスメラルダをずっと支えてくれていた。
「ザフィーロが、リルベルを諦めてないの……」
「リルベルって、あの?」
レイリーにとっては3年前にエスメラルダとの結婚のキッカケになった少女だ。
無茶苦茶な理由から、エスメラルダは結婚を決めたのだから。
『ザフィーロに公爵は継がせられないかもしれない。あの子は犯罪者になる前に隔離しなきゃ。だから結婚して。子供を産むから』
それがエスメラルダがレイリーにした求婚だった。
レイリーはエスメラルダがザフィーロを産んだことを知っている一人。
父親がラルゴ殿下であることも。
レイリーは父が選んだ協力者だった。
出産のために領地に籠った母とエスメラルダのことを王都にいる父に伝える連絡係だったのだ。
だから、エスメラルダがザフィーロの性癖を恐れていることを知っていた。
「あれから3年だから、リルベル嬢は10歳か。ザフィーロは婚約していたんだし、彼女とは年に一度会ったくらいだよな?だけど、諦めてない?」
「そうなの。『婚約話、進めてもいいよね?』って。怖い、怖いよね。どうしよう。もう隔離する?」
「落ち着いて。ザフィーロにあの性癖があるかどうかはまだわからないだろう?」
「だけど……あれっきりそんな様子はなかったから安心してたのに。」
「それは婚約していたからだろう?15歳で婚約解消するために逆の努力をしていたからなぁ。」
逆の努力。
クリスタに嫌われるための努力。
陰気で猫背で前髪の鬱陶しい男らしくない男を演じ、ワザと成績も落とし続けた。
クリスタと婚約白紙になった今後は、公爵家の者として恥じない成績をとるだろう。
「婚約の打診はして、内定って形を取ったらどうだ?正式に届は出さずに。
性癖が似ていたら12歳の少女までなんだろう?彼女が13歳になるまで交流させないというのはどうだ?
それまでの間、ザフィーロが少女に興味を示すかどうか、確かめたらいい。な?
落ち着いて。胎教に悪いから。」
まだ目立ってはいないが、エスメラルダはようやく妊娠した。
約16年ぶりの出産になる。
ザフィーロにも母にも報告している。
二人共とても喜んでくれたが、今思えば、ザフィーロの笑顔は黒かった気が……
産まれてくる子供に公爵家を押しつけて、自分はリルベルを連れ去る気で……
「エスメラルダ、何か考えが暴走しているような顔をしているぞ?
君の心配は杞憂だと思うけどな。ザフィーロはマトモだと思うよ?腹黒そうだけど。」
腹黒……確かにそれは合ってるかも。
でも、少女を愛でるという性癖がないとも限らない。
だけど、どうしてリルベルとの婚約を反対するのかザフィーロに説明することもできない。
だが、今のあの子はリルベル以外の縁談は尽く受け入れないに違いないことは確かだ。
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