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しおりを挟む王都に戻ったエスメラルダは学園に通い始めた。学園は4年制。
飛び級制度もあるが、学園を卒業しないと爵位は継げない。
エスメラルダは父である公爵から言われていた。
『遺言書で跡継ぎに指名しているのはエスメラルダだ』と。
もちろん、跡を継ぐのはまだまだ先の話ではあるが、父はザフィーロを指名することはないと言った。
エスメラルダが公爵になった後、ザフィーロを指名するのもしないのも任せるということだ。
卒業するまでは、エスメラルダが跡継ぎだと公表する気はない。
ザフィーロが産まれたことで、ラース公爵家はザフィーロが継ぐものだと周りは思っているだろう。
公爵家の支援を目的に、エスメラルダと婚約を望む貴族もチラホラと出てきた。
だが、さすがにラルゴ殿下の元婚約者であったエスメラルダを高位貴族は望まなかった。
エスメラルダに非がないことはわかっていても、王家の目を気にするのだ。
それに、高位貴族の跡継ぎは結婚済か婚約済がほとんどであるため、縁談の申し込みはない。
来ても、跡継ぎだとは公表する気はまだないし、どちらにせよ純潔ではないエスメラルダは受けることなどできないので全て断っていた。
そうしてエスメラルダは婚約者がいないまま、学園を卒業した。
エスメラルダは、結婚する気はなかった。
自分にはザフィーロがいる。
父は、おそらく長く公爵を続けるだろう。それこそ、ザフィーロが学園を卒業する頃まで。
エスメラルダは中継ぎのような公爵を短期間だけ務めた後、ザフィーロに譲ればいい。
そう思っていた。
だが、エスメラルダが20歳の時、父が亡くなった。
罹患すれば5人に1人が亡くなるという、数十年毎に流行る病に家族も罹ったが父だけが亡くなったのだ。
そうして、毎年日付だけが書き換えられた同じ内容の遺言書の通り、エスメラルダが公爵となった。
母は41歳、ザフィーロは7歳だった。
父の仕事を手伝っていたことで、何もわからずに困るという状況にはならなかった。
仕事よりも厄介だったのが、公爵位を継いだエスメラルダに舞い込んでくる縁談だった。
エスメラルダとの間に子供が産まれれば、ザフィーロではなく自分の子供を跡継ぎにすると思われたからだった。
縁談を断り続けた結果、やはりザフィーロを跡継ぎにするつもりだと今度はザフィーロに婚約の打診が来た。
それがあのソンブラ侯爵家のクリスタ嬢だったのだ。
ザフィーロにその気がなかったので何度も断ったが、同じ年頃の公爵・侯爵令嬢はほとんどおらず、確かにクリスタは爵位的に相応しいとは言えた。
様子を見るのもアリかと思い、ザフィーロが10歳のときに条件付きで婚約を認めた。
しかし、ザフィーロはクリスタに嫌われるように仕向け始めたのだ。
エスメラルダは好きにさせた。どうやってソンブラ侯爵やクリスタを諦めさせるつもりか見てみたかった。
成績を落としたのもワザとだ。
だが、ザフィーロが12歳のとき、エスメラルダにとっては衝撃的なことがあった。
『僕、あの子と結婚する』
ザフィーロがあの子と言った女の子は、遠縁の伯爵令嬢リルベル。まだ7歳だった。
少女どころか幼女と言ってもおかしくないその女の子を見初めたザフィーロにゾゾっとした。
父親であるラルゴ殿下の性癖を継いでしまったのではないか。
怖くなったエスメラルダは、10歳年上の未婚の部下を、一度求婚されたが断り、それでも五年前から恋人として付き合っているレイリーを泣き落として結婚した。
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